現在

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 俺は新居の前に立って、表札を見ている。 「何にやにやしてんだよ」  表札を見ている俺を更に後ろから見ていた智也が言う。 「ちょっと……な……」  俺は智也から顔をそむけて少し手を上げて応えた。新しい二人の家に感極まっていたなんて、バレたくなかったのだ。 「小学校んときみたいだな」智也が俺の横に来て、何気なく言った。 「え?」  目の前の表札には、  田中  矢代  と、2つの名前が並んでいる。  ほんとだ。日直のあのときの名前みたいだ。 「早く入るぞ。引っ越しの荷物いっぱいあんだから……」 「……わかった。いくって!」少し涙声になったのを隠そうと、語気を強めて言った。 「今度は相合い傘書くなよ」  智也が笑いながらそう言って玄関へ向かった。  俺は驚いて、目を見開いたままの表情で固まってしまった。  ずるいやつ。今、それを言うかよ。  俺は、目の端をぬぐうと、前を歩く矢代智也の肩を抱いて新居の玄関へと向かった。
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