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夢を見た。
その夢で、幼い菫は黒羽に救われた。なんとなくそれが、現実にあったことではなかったかと、菫も思っていた。けれど、実際にあったことなのだと誰かに指摘されるとは思っていなかったし、確認するのも怖かった。
嘘だろう。と、決めつけるのは容易かったかもしれない。でも、嘘ではないのだと、菫自身が納得してしまっていた。
「あれを片付けるために、黒羽様は残っていた力を殆ど使ってしまった。本当になくなったら、消えるしかない」
「それは、死ぬってこと?」
声が震える。
「同じではない。けれど、近い言葉を探すなら、そうだ。
俺たちは、人間とは違う。どのくらい存在できるのかとか、決まってるわけじゃないし、どうやって生まれたのかも、よくわからない。ただ、在り続けるためには、畏れとか信仰とか怨嗟とか感謝とか、人間が持っているそういうものが必要で、絶ってしまったら消えるしかない。
神社に祀られるようなものは繋がりが太いから消えたりしない。俺たちでも、少し人間を脅かしてやるだけでも、在り続けることはできる。でも、黒羽様は人間とかかわろうとしない」
黒羽が何故、そういうものを拒絶するのか分からない。
分からないけれど、少なくとも、その貴重な『寿命』とも言えるものを、菫のために使ったことは事実だ。それが、怖かった。
「だから。あんたが必要だ。あんたがいてくれれば、少なくともあんたが生きている間は……いや。俺が黒羽様を説得するまででいい。黒羽様の繋がりになってほしい」
そこまで言って、新三は菫の前で深々と頭を下げた。
「お願いします」
菫はどうしようもなく混乱していた。菫は自分が同性愛者だとは思っていない。鈴だから好きになったし、鈴だから抱かれてもいいと思った。そういう関係に偏見はまったくないけれど、鈴以外なら、男を選ぶことはない。
そんなこと以前に、たとえそれが人(?)命救助だとしても、きっと鈴は許してくれないだろうし、鈴に嫌われたくはない。
「って……いうか。他に方法はないのか?」
他に何か助ける方法があるなら、力を貸したいと思う。黒羽が自分のために命を削っていたのならなおさらだ。
「ないわけじゃない。でも、間に合わない」
ため息を吐くように新三は答える。
「どんな方法だよ」
諦めたような口調に少しだけ腹が立った。他に方法があるのなら試してみたい。と、思わないのだろうか。
「無理だよ」
菫の責めるような口調に反論するでもなく、力なく新三は言う。
「そんなのやってみないと……」
「やっみたさ」
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