28人が本棚に入れています
本棚に追加
「……北島のガキがいるから?」
まるで、空気にガラスの破片が混ざったようだった。それが、菫ではなく、鈴に向いている気がする。
そうだ。
菫は思う。
目の前のコレは人間ではない。所謂生物学上の狐でもない。
日本昔話に出てくる、葉っぱを頭にのっけて化ける。アレだ。
「アレがいなかったら、いいのか?」
初めて、怖いと思った。猫の姿にされても怖いとは思わなかったし、空間を繋げるなんてありえないことがあっても、なんとなく受け入れていたのに、はじめて思う。彼らは自分とは相容れないものなのかもしれない。
「……や。鈴は関係ない」
慌てて否定したけれど、恐らく意味はない。こんな言葉で誤魔化せる気はしなかった。
確かにそうでなくても、黒羽とするなんて躊躇するのは間違いないけれど、即答で断ったのは鈴の顔が浮かんだからなのは事実だからだ。
「……黒羽様は、もうずっと力なんて使わないで、社に籠ってた。ごくたまに夜をぶらつくことはあって、誰にも関わることなんてなかった。そうしていれば、まだしばらくはそのまま過ごせたかもしれない」
殺気とも呼べるほどの空気がふと、和らぐ。直接、鈴をどうこうしようという気持ちはないのだろうか。かわりに新三は自分を落ち着かせるように努めてゆっくりと話し始めた。そして、そこで言葉を区切る。その先を躊躇しているように見えた。
「けど。あんたに会ったから」
何かを振り切るように、新三は言った。
最初のコメントを投稿しよう!