3 死ぬってこと?

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3 死ぬってこと?

 遠く、車が走る音が聞こえた。  そこは異世界でも、過去でも、夢でも何でもない、ただ普通の松林の中の、ボロボロの社の前だった。ただの現実。  それは、菫がよく知る昼の世界のすぐ隣、境界すら曖昧な場所にあって、昼の世界の理とは違う法則で生きていた。そして、今、菫は完全にそちらの世界に立っていた。 「あんたを助けるために、黒羽様は力を使った。だから、もう、残っている力は殆どない」  言ってから、新三は強く唇を噛んだ。それが、菫を思い通りに動かそうとする嘘だとは思えなかった。 「……俺が。呼んだから? あの黒い犬。そんなにヤバかったのか?」  だから、菫は問い返した。  菫のかけられた黒い犬の呪い。葉が言うには、それは、たった一人の女子高生のちょっとした嫉妬心が産んだものだった。ただ、それが意図せず正しい法則にのっとってしまっていたがために、菫は鈴まで巻き込んで死にかける羽目になった。  よくないものだということは、一目瞭然だったけれど、たかが女子高生の嫉妬がそこまでヤバいものだったとは思えない。実際、黒羽も雑魚と表現していた。 「犬? あんなもんじゃない。首のない女の方だ」  どくん。  と、鼓動が跳ねる。  首のない女。  その言葉が頭に突き刺さった気がした。 「首のない……」  高熱を出している間に見た夢が過る。確か、あの日。菫は首のない女に追われていた。 「覚えてないのか? 大手町の大きな楠の社に閉じ込めたあいつだ」  大手町の楠。それは、あの日首のない女に追われて、菫が逃げ込んだ場所だ。あの後高熱が出て、それが収まるころには何も覚えてはいなかったけれど、何か不吉な感じがして、それ以来一度も近づいたことはなかった。  ただ、今の職場からはさほど離れてはいないし、見える範囲に行くようなことはないけれど、鈴とのデートでも近くを通ったことはある。 「好いた男に裏切られた哀れな女だ。世界の全部を呪っていた。あんたに目をつけたのは多分、その目が原因だけど、黒羽様は哀れに思って消しはしなかった。ただ、閉じ込めた場所が悪くて……ああ。そんなことはどうでもいい。とにかく、あの女はあんたを諦めていなかったし、黒羽様の優しさなんてわかってなかった。  だから……もう、消すしかなかったんだ。あんたを守るために」
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