3 死ぬってこと?

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「やってみたさ。あんたに頼む前にどうにかしようとした。けど、30年かけてもダメだった。  社。人間たちの手で、再建して……。再建はしなくてもいい。ちゃんとした体裁なんていらない。もともとそんなの、勝手に人間が決めたもんだし。ただ、しっかり管理させる。あくまで人間の手で。だ。  そんなの、今更できるのか? 無理だろ。人間には俺たちの声は聞こえない」  新三の言葉には深い諦観が籠っていた。きっと、彼のいう通り、この社がこんなふうになってしまわないよう、彼は努力してきたのだろう。それに人間は気付かなかった。  神社や祭りなどの地域を存続させる仕組みが次第に消えていっているのは、何もここだけに限らない。田舎には、そこかしこにいわれの分からない祠や社や碑が点在しているが、すでに祭りも行われなくなり、修繕もされていない場所も多い。  そこには過去何かを願って招いた神が祀られていて、そこに住む人々の祖先は恩恵を得る代わりにそれらを信仰していた。それをそこに住む人のせいだけにはできないが、何が、どうしてそこに在るのか分からなくなったのは人間の勝手で、神々に対する負債が消えたわけではない。親がした借金が何に使われたか分からないからと言って、踏み倒す権利などない。  せめて分霊してきた元の神社にお返しできればいいが、それすら伝わっていない場合も多い。  きっと、この社も同じなのだろう。 「一人じゃだめだ。この方法で黒羽様が存在していくのなら、少なくとも数十人。場合によっては数百人の人間の力は必要になる」  確かに、その大きな流れを変えるのは難しい。新三一人でどうにかできる問題ではない。  おそらくは、菫一人でもどうなるものでもないだろう。時間はかければかけるほど難しくなる。30年前でも遅かった。今ではどうにもならないと、新三が思うのは無理もない。 「別に。それを人間のせいにするつもりなんてない。俺たちはどこからかここへ連れてこられたわけじゃなくて、ここで生まれた。人間の全部が薄情じゃないのも知ってる。  そう言うことじゃなくて。ただ……」  放置されて機能がおかしくなる神社の話は聞いたことがある。実際には見たことがないけれど、危険だという人は多い。  だから、祀られている者たちは人間を恨んでいるのかと思っていた。でも、新三は言った。 「俺はただ。あの人に消えてほしくないだけだ。もう、家族を亡くしたくないだけだ。権六兄も、清姉も、臣丞もいない。もう、俺と冴夜には黒様しか……」  新三の声が、握りしめた拳が震える。それだけで、彼が黒羽をどれだけ思っているのか分かった気がした。 「だから。あんたが、嫌だというなら……」  そう言って、新三は顔を上げた。その目を見た途端、身体が動かなくなる。赤い。赤い瞳だった。 「悪いとは思う。だから、俺のこと恨んだっていいし、北島のガキには俺が全部悪いって言えばいい」  何か言いたくて、唇を動かそうとしても、声も出ない。怖い。と、言うより何故か酷く悲しかった。  出てはくれない言葉の代わりに、瞳の端に涙が溜まる。その涙に、新三は一瞬、酷く狼狽したように見えた。 「ごめん」  と、伸ばした新三の手が菫の眉間に触れようとした時だった。
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