53 西部へ

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53 西部へ

 久方ぶりの運転で不安しか無かったけれど、夜間で車が少なかったこともあって、フランの取っていた宿から王都までは一時間半ほどで到着することが出来た。  宿の電話を借りてゴアには連絡したが、ことの経緯を説明すると、すぐに動ける騎士を集めて討伐隊を向かわせてくれるという話になった。 「ローズ……!無事に戻って良かった、フランは…!?」 「クレア!ありがとう、みんな本当に…」  家に到着すると、走り寄って来たクレアの腕からプラムが飛び降りる。私は小さな身体を抱き締めながら、起こった出来事を掻い摘んで話した。  どうやら訓練終わりに皆で家で待ってくれていたようで、フィリップやダース、メナードも心配な顔で私の話に耳を傾ける。驚いたことにラメールまでもが退院を早めてその場に集結していた。 「体調は大丈夫なの、ラメール?」 「もともとアンタの治癒のお陰で怪我は塞がっていたんだ。あの時現れた魔物は獰猛なクマの姿でねぇ、攻撃された時は死んだかと思ったが……」  ローズに救われたね、と言って老婆は微笑んだ。  私は大したことをしていないので、ただ首を振った。静まり返る皆の顔を見て口を開く。自分が見たこと、聞いたこと、フランが取ろうとしている行動について共有した。 「つまり、フランは王様と王子様を引っ掴んで西部へ向かったってわけだな。ほんと……無茶苦茶なヤツだ、」 「無茶苦茶だけど、怒る気持ちは分かるわ。そんな私利私欲のために生み出された魔物のために、私たちが戦ってたなんてね……」 「しかしよォ、共鳴装置で本当に魔物が集まって来るのか?」  廃病院で私が見た白龍の話をするとダースは青い顔をした。 「マジかよ。龍まで集まって来ただって!?」 「怖いなら家に帰って毛布にでも包まってなよ」  そう言いながらクレアは立ち上がる。  腰に装備した短剣を弄りながら遠くへ目線を投げた。  その先には私が乗って来たフランの車があった。私は彼女が考えていることを推し量ってハッとする。 「まさか……西部へ向かうの?」 「だって貴女はそのつもりでしょう?」 「そうだけど、」 「じゃあ私たちが行かない理由もないわ。ローズが到着する少し前にエリサ副隊長から電話があったの。西部へ応援に来てくれってね。詳しい事情は分からなかったけど、今ようやく繋がったわ」  運転は私がするから、と言ってクレアは車に近付いた。 「そういえば、フランは高貴なゴミをどうやってお城から連れ出したのかしらね?」 「分からないわ。彼は自分で魔法が使えるから大丈夫だと言っていたけど……」 「なんだって…!?」  それまで黙っていたラメールが驚いたように叫ぶ。  プラムと遊んでいた手を止めて私の方へ詰め寄った。 「フランは魔法を使うのかい?」 「えっと……はい。黒龍と同じ火の力を扱えるようでした。だけど、気のせいか、魔法を使った後は何か痣のようなものが出ていて……」 「それは不味い!あのバカちん、龍の力を借りるなんて!あれは使えば使うほど自由を奪われてしまう、自分でも分かってるはずだよ」 「そんな……!」  私は驚いて立ち上がる。  ラメールは困ったように眉を寄せて「どいつもこいつもバカばっかりだ」と嘆いた。その後ろではフィリップがメナードと何やら話していて、やがて意を決したようにこちらへ歩いて来た。 「ローズさん、僕たちはここに残ります。数が多ければ良いものでもない。情けないですが実戦向きではないことは理解している。ラメールもまだ怪我人ですから、僕たち三人にプラムさんは任せてください」  プラムは大人たちの間でソワソワと身体を動かす。  私は屈んで不安そうな娘と目を合わせた。 「ママぁ………パパは…?」 「プラム、パパは今からママたちが連れて帰るわ」 「ほんと?」 「うん。必ず貴女のもとに帰って来る。だから…ラメールさんたちと待っててもらっても良い?」 「わかった。良い子するから、やくそく」  おずおずと差し出された小さな指に小指を絡めて、しばしの間、安心させるために抱き締めた。  振り返ると、クレアとダースはもう車に乗っている。私は残る四人に別れを告げて助手席の扉を開いた。続く黒い夜の下、静かに車は走り出す。
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