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「どうぞ」
「もしかして、お酌してくれたの?」
「はい。雲雀さんは義姉になるので」
「……居酒屋でバイトとかしてる?」
「え? うちの学校、バイト禁止です」
「あ、そう(ていうか本当に高校生?)」
礼儀正しく気が利く壱臣に対して、雲雀はついにその年齢まで疑いはじめた。
そんな娘の思考を知らない百合子は、二人の会話を微笑ましく見つめながら、乾杯しよう!と声をかける。
そうして三つのグラスがすき焼き鍋の上で、本日からはじまる同居を祝福するように音を鳴らした。
「壱臣くんが手伝ってくれて助かったわ。雲雀は家事が、特に料理は苦手らしいから――」
「お母さん、私は毎日カップ麺で生きていけるの」
「ほら、こういうこと言うのよ。放っておいたら大変でしょう?」
そう言って壱臣に同意を求めた百合子に、にこりと微笑んだ義弟が雲雀に視線を向けながら話す。
「そういう自由なところ、俺の父に似ています」
「確かに、英介さんも自由な人だもんね」
雲雀は未だに会ったことがない母の再婚相手であり、義弟の父親。
しかし、会う前に仕事で海外へと飛んでしまったので、次に顔を合わせられるのはいつになるのやら。
思いながら雲雀がグラスのビールを飲み干すと、それに気づいた壱臣がサッとおかわりを注ぐ。
「……ありがとう」
「俺の父さんも、よくこのビール飲んでいました」
「え、うちの商品飲んでくれてたんだ……嬉しい」
「俺も成人したら、初めてのビールは雲雀さんのおすすめ飲みますね」
そうして控えめに微笑んだ壱臣からは、人柄の良さが全面に出ていて、雲雀は思わず見惚れてしまう。
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