97人が本棚に入れています
本棚に追加
四月「はじめまして」
咲き誇った桜の花びらが舞う、新年度になったばかりの昼下がり。
会社近くのパスタ専門店でランチ中の水戸雲雀は、出来立ての明太パスタをくるくるとフォークに巻きつけて、深いため息をついた。
その様子を見て、正面に座る同期の足立実世が心配そうに声をかける。
「雲雀どうしたの? 今朝から調子悪そうなんだけど」
「うーん。ちょっとね……」
言いながらくっきりとした猫目を伏せて、ベージュブラウンのミディアムヘアが肩を滑る。
そうしている時は、モテそうな雰囲気が漂うのに。仕事中はいつも業務のことしか頭になくて、今の雲雀にとって恋愛は、いや男は二の次三の次。
しかし、今朝はその仕事モードも感じられないほどに、どこか気合いに欠けていた。
「フレッシュな新入社員の自己紹介中も、ずっと眉間に皺寄せてたし」
「え! 何それコワ!」
「お前がな」
飲料製造販売会社、ナミア・ホールディングスに入社して三年目の雲雀は、働き盛りの二十四歳で、先輩後輩のみならず同期にも恵まれていた。
その証拠に社内で唯一何でも話せる実世に、何か悩みでも?と問われて、雲雀はようやく胸の内を打ち明ける。
「……先月、母親から急に“再婚したい人がいる”って言われたのよ」
「えーいいじゃん。確か雲雀を産んですぐ離婚して、ずっとシングルだったんでしょ?」
「うん。まあお母さんにそういう人がいたっていうのは嬉しいんだけど、問題はそのあとで……」
言いながらもう一度ため息をつくと、雲雀は先月の母との会話を思い出していた。
最初のコメントを投稿しよう!