四月「はじめまして」

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 その点、英介の息子はまだ学生なんだから大人が守ってあげないと。と目で訴えてくる百合子。  社会人になってから彼氏ができないことを指摘され、雲雀は何も言い返せなくなってしまった。  雲雀が未だに一人暮らしせず、実家に居座っているのは他でもない。  お金がかからず、最寄駅から徒歩十分で通勤も楽。  何より看護師として働く百合子は不在も多く、実家で一人暮らし気分をすでに味わっているからだ。  それが今、義理の弟ができて同居を開始することで、快適な生活が危機に晒されようとしている。 「お母さんは、その息子くんに会ったことあるの?」 「この前、雲雀が急に残業になっちゃった日に初めて会ったわ」  それは数日前、母と食事をするためレストランに呼ばれていた雲雀は、急遽残業になり行けなくなった。  実はその日、百合子は雲雀に再婚相手とその息子を紹介する予定だったらしく、再婚のこともみんなを交えて話すつもりだったと補足する。 「壱臣(いちおみ)くんは十七歳なのにとてもしっかりした良い子で、だから私も同居を勧めたのよ」 「……壱、臣くん……?」 「雲雀にも会わせたかったわ。これから義弟になるんだもの……」  仕事だから仕方ないと理解している一方で、自分だけが母の再婚相手もその息子も知らない状況。  それで同居が勝手にはじまることに対し、なんだか納得できない雲雀は密かに“合わなかったら出て行こう”と決意した。
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