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そんな先月の出来事を同期の実世に包み隠さず話した雲雀は、最後にこう告げる。
「その壱臣くんという義弟が、ついに今日引っ越してくるんだよぉぉ」
「それが今朝から調子悪い原因?」
「何ていうかさ、他人が家にいるって嫌じゃん?」
「でも義弟になるんでしょ? それに高校生なら年も離れてるし、遠い親戚感覚で接したら?」
実世はフォークに巻きつけたパスタを頬張って、他人事だからと軽々しくアドバイスをする。
じとっと睨んだ雲雀だが、それでもやっぱり不安の方が大きかった。
実は不良で、母の百合子の前では良い息子を演じ、自分の前では本性を現してカツアゲされたらどうしようと。
そんな雲雀の悩みを、実世が一喝する。
「んなわけないでしょ、どんな高校生だよ」
「いやわかんないじゃん! 今の若い子は何考えてるかわからないってテレビで言ってた!」
「それは会ってみないと何とも言えないけれど、何より高校生と同居なんて楽しそうだから若い気吸ったれよ」
「きも」
実世の回答はどれも雲雀には理解できなくて、相談相手を間違えた感が否めなかった。
それでも仕事を終えて帰る場所は、すでに引越しを完了させたであろう義弟がいる実家しかない。
どうか今日のような日こそ、急遽残業案件が降ってきますように、と願ったのも虚しく。
何のトラブルもないまま、この日定時で退勤した雲雀は思い足取りで帰宅することになった。
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