六月「可愛いお嫁さん」

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 真顔で答える壱臣のことを重症だと悟った雲雀が、口を開けたまま固まる。  ただ、最後のセリフは聞き捨てならないと立ち上がった百合子が、涙目で訴えた。 「そんなの絶対だめよー! そんなことになったら英介さんになんて説明したらいいの!」 「……え? 百合子さん?」  今まで落ち着いて話していた百合子が、突然声を荒げはじめた。  目を見張って驚く壱臣だが、アルコール摂取するとたまにこうしてスイッチが入る母を知っていた雲雀は、あえて放置する。 「英介さんの大事な一人息子を、雲雀のお世話のために一生独身にさせるなんて……」 「あの、百合子さん落ち着い――」 「壱臣くんかっこいいんだから! 可愛いお嫁さん連れてきてよー!」 「か、可愛いお嫁さんて……」  そう嘆く百合子を宥める壱臣だったが、埒があかないと判断して隣に座る雲雀に目配せした。  しかし、この状況を作ったのは絶対に壱臣だと思っている雲雀は、べっと舌を出して子供じみた反応を示す。 「っ!(雲雀さんの中身は絶対五歳児だ!)」  七歳年上の義姉にカチンとしながらも、義母の百合子に対してはどう接したら良いか見出せない。  悔しそうな表情を滲ませて、壱臣は小声で「雲雀さん助けてください」と眉を下げた。  すると、いつもは叱られる側の雲雀が今回は勝ったような気分となり、弾けた笑顔を咲かせる。  その屈託のない笑顔が、壱臣の心にまた一つの変化を与えるとも知らずに。 「おかーさーん。壱臣くん困ってるぞー」 「だって、壱臣くん結婚しないって……」 「しないとは言ってないし、心配しなくてもいつか可愛いお嫁さん連れてくるってー」  百合子の肩をトントン叩いて、ありもしないことを話す雲雀。  可愛い嫁を連れてくる保証も予定もない壱臣の表情が嫌そうに歪んだが、それを聞いた百合子の機嫌はパタリと直った。  こうして誕生日祝いは滞りなく終了する。壱臣に変なプレッシャーを残して……。
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