六月「胸が苦しい」

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「あーそれは全然大丈夫だよ! 別にやましいこと書かれてないし」 「え?」  おそらく文斗的には、そのやましい気持ちを抱いていてのメッセージ送信だったはず。  そう確信していた壱臣は、未だに雲雀がその気持ちに気づいていないんだと知る。  そして、それは壱臣にとって好都合だと思ってしまった。 「じゃあ、雲雀さんは宮原文斗を何とも思ってないんですね?」 「だから言ってんじゃん、ただの同僚だって」 「……わかりました」 「もしや壱臣くんて意外と色恋沙汰好きなの? 恋でもしてるん?」  それとも、そういう年頃なのかな?なんて思いながら、ニヤニヤして目を細める雲雀。  もちろん今の壱臣の複雑な感情にも気づいていないわけだから、平気でそんなことを言ってしまう。  しかし壱臣は、ここではっきり伝えた方が何か変わる予感がして、雲雀の目を見て肯定した。 「そうですね。多分、恋かもしれません」 「え……え、ちょ、お姉さんに詳しく話してごらん?」 「雲雀さんには絶対相談しませんけど」 「はあ⁉︎」 「おやすみなさい」  雲雀の怒り顔には目もくれず、壱臣は一礼して静かに部屋を出ていった。  結局何を話したかったのか、喧嘩を売られただけなのかさえ雲雀はわからず。  再度マッサージクッションを起動させて、足を乗せながら仰向けになった。 「壱臣くんが、恋かぁ〜」  その真実に、何だか幸せな気分を分けてもらった感覚になる雲雀は、自然と笑みをこぼす。  そして学生時代の恋なんて楽しいしかない!なんて持論を思い出しながら、自分の時の記憶も蘇った。  高校三年生、文斗と交際していた一年間。  あの頃は何も深く考えず、ただただ好きな気持ちが突っ走っていた。  そんな甘酸っぱい青春を思い出し、あの頃と同じ年齢の壱臣の恋を、雲雀は密かに応援する。
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