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「壱臣くん、うちのお母さんにはまだ謙虚だけど、私にはなかなか生意気になってきたよね?」
「っ……そんなこと、ないですよ」
「あるよ。まあそっちの方が“素顔”って感じで、私は嬉しいけど」
「……ッ!!」
微笑みながら話す雲雀は、不思議とキラキラ輝いて見えた。
朝日が当たっているせいなのか、それとも自分だけにフィルターがかかっているのか。
一瞬目を擦った壱臣が、今日は朝から雲雀のせいで調子を狂わされていると自覚をした。
すると、並んで歩いていることで一つの妄想が働いた雲雀が、たとえ話をはじめる。
「もっと昔に親たちが再婚していたら、私たちも違ったのにね」
「え? どういう意味ですか」
「たとえば私が中学一年生の時、壱臣くん五歳だよ」
「幼児……そんなこと考えたくな――」
「そうしたら、きっと私が手を繋いで壱臣くんを保育園に送り届けていたかもしれないじゃん!」
こうやって。と言葉を続けて、不意に壱臣の手に触れ躊躇なくぎゅっと握ってきた。
雲雀的には悪ふざけのつもりだったけれど、壱臣の反応が見たくて顔を上げると。
あっという間に耳まで真っ赤に染めた年頃の男子のような顔をする、予想外の壱臣がいた。
瞬時に“何かを間違えた”と察した雲雀だが、それよりも先に壱臣の方からその手を離して顔を背ける。
「ごごごごめん! 悪気は、いやちょっとだけ悪ふざけは入ってたんだけど、ごめん!」
「…………嫌いだ」
「わーごめんて! ほら、今日帰りにコアラのパンチ買ってきてあげ――」
「子供扱いしないでくださいっ」
言いながら先に歩き進む壱臣の背中に向かって、何度も謝る雲雀。
そうこうしていると、徒歩十分で到着する最寄駅が見えてきた。
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