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ただ、一日の始まりの時間帯であり清々しい外気の中では、どう対処して良いのかわからず。
咄嗟に手離してしまった自分の情けなさは、今後の課題でもあると反省した。
(……余裕ないな、かっこ悪すぎ)
こんなことでは社会人で元カレ文斗に勝てるわけないのに。と自己嫌悪に陥る壱臣が、二番ホームに到着する。
すでに何人かが列をなして電車を待つ中、いつも通り最後尾に並んだ。
そして俯いていた顔を何気なく上げた時、線路を挟んで向かいの一番ホームにいた雲雀の姿に気がつく。
「っ!」
向こうはまだホームに上がってきたばかりで、電車も発車した後だったために列がない。
どこに並ぼうかと歩く雲雀の様子を視線で追いかけていると、偶然にも壱臣が並ぶ列の正面に立ち止まった。
先頭に並ぶ雲雀は、壱臣には気づいておらず。
たまに吹く風で乱れる髪を、片手で押さえる仕草が大人の女性らしくて綺麗だった。
(……胸が苦しい)
それを目の当たりにして、壱臣の心臓が反応しないはずもなく。
徐々に鼓動が大きくなり暴れてしまうのを感じながらも、雲雀から目が離せない。
繋がれた手は簡単に離したくせに、と自虐的なことを思いながらも、雲雀に見惚れる壱臣がそこにいた。
そして今なら言える――これはもう、確実に恋をしていると。
『こういうことは好きな人としたいよね』
(……好きだから、できないんですよ……)
雲雀の言葉を思い出しながら、そう心の中で答えた壱臣。
正直に気持ちを表すことも、その体に触れることも。
何とも思っていなかった時の、何も考えずにできたことが今はもうできなくなった。
義姉に、雲雀に恋をしたせいで――。
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