四月「はじめまして」

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 そもそも同居することになった理由は、あと一年で高校を卒業する壱臣を、海外へ連れていくには可哀想だということと。  受験生の壱臣を一人残すのも負担が大きいから、サポートしてあげたいという母の思いから。  なのに帰宅してからここまで、サポートされているのは誰がどうみても雲雀の方だった。 (あれ? もしかして私をサポートするための同居話だった?)  社会人にもかかわらず、実家暮らしでろくに家事の手伝いもしない。  仕事はできても生活レベルが幼児並みの雲雀を、百合子と壱臣でサポートしようという計画?  変な思考に走りそうになった時、準備を終えた母の百合子と義弟の壱臣がそれぞれ席につく。  百合子はいつものように雲雀の正面に座り、そして初めてこの家で夕食を迎える壱臣はというと、何食わぬ顔で雲雀の隣へと静かに座った。 「今日は壱臣くんの歓迎会だから、少し良いお肉買っちゃった」 「お母さんが食べたいだけでしょ」 「雲雀も好きでしょ。じゃあまずは乾杯ね」  言いながら壱臣のグラスに烏龍茶を注ぐ百合子は、やはり義理の息子を気にかけている様子が窺える。  このメンバーの中で一番緊張しているのは、おそらく義弟だと雲雀も思っていた。  だからいつも通り自分のことは自分で、と缶ビールを開けて自分のグラスに注ごうとした時、隣に座る壱臣にヒョイと奪われる。 「えっ、ちょ⁉︎」  まさか未成年なのに飲むの⁉︎と疑いの目を向けると、壱臣は奪ったビールを雲雀のグラスに注いでいった。  それも、お店で出てくるような七対三の割合を考えて、美しい黄金比が目の前に泡立っている。
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