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「分かるか、救護所だ。名前言えるか?」
「き、きくかわぁぁ……」
「よしよし菊川さんな。何を何杯飲んだ?」
「えっと……たぶん、日本酒をぉ……」
菊川青年は半開きの赤い目でぼんやりと宙を見て、親指と、人差し指と、中指を曲げた。
「三合くらっ、くらいですぅ……うぃ」
「何でえ、大した事ァねえな! ガキんちょが調子んのって飲みやがるからこうなるんだぜ。それとも誰かに飲まされたか?」
「はひ。下宿先の、帝大生──う゛っ」
菊川は真っ蒼な顔をして口元を押さえた。周囲に緊張が走る。苦し気に曲がる背中を撫でさするように、四月の夜風がゆるゆると遊び去った。闇夜に透ける白い花弁が幽玄な夜、全ての美しい事象を差し置き青年は限界であった。
「あーあー、苦しいねえ。おい誰か水持って来てやんな」
ステンレス製の膿盆を菊川青年の顎下に宛てがい、医師は顰めっ面をした。看護婦が水の入ったコップを持ち駆け寄るとそれを手渡し、一口ずつ含むように言い聞かせる。
「喉乾いたろ。でもいっぺんに飲むなよ? ガブガブ飲むと胃が暴れて、ますます苦しくなっちまう」
「はあぁ。あ、あかん……はく! 俺、はいてまう……!!」
バク、バク、と間欠的に沸き上がる嘔気が堪らず、胃のあたりを押さえ悶絶する菊川。限界は近そうだ。
「あぁ吐け吐け。んな酔っちまったらもう、いっぺん出し切るしかねえんだって」
「い、いやですぅ……人前でこんな、俺ぇ、ぜったい嫌やぁ……!!」
「ったく強情だなぁヘタレのくせに。ほれ腕出せ。注射したらぁ」
「ちゅ、注射!? なんで!? 何のための注射です!!?」
菊川は青くなったり赤くなったりしながらイヤイヤと首を横に振った。
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