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──きっとこれは、今の記憶をいくら辿っても着かないほど昔。
一本の立派な桜の木に一人の男がもたれかかって、何やら口ずさんでいた。
『お侍さま、その歌はなあに?』
『これは小さい頃、母に教わったんだ。いい歌だろう?』
『うん、そうね。お侍さまはどうしてずっとここにもたれているの?』
『この桜の木は、俺やお嬢さんが生まれるずっと前からあって、ここを行き交う人々を見守ってきたんだよ。でも年老いてしまって、もうすぐ役目を終えるんだ』
『枯れてしまうの・・・』
『そうさ。だから俺はこの木が死んで切られるその時まで、隣で見届けようと思ってね』
お侍さまの顔が、どこか寂しそうに見えたから。
『じゃあわたしもお隣に座っていいかしら。母さまが心配してしまうから暗くなるまでの間だけ、いっしょにお花を見ましょう』
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