桜が舞う中で

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 買い物の帰りに、絵美の部屋に飾る花を買いに花屋へと立ち寄った。手狭な店内の奥の冷蔵ケース前で花を選び振り返ったところ、店頭に並べられる前の花たち中に、ピンク色の蕾がついた枝があることに気づいた。 「すみません」  花を束ねていた店員に思わず声をかける。 「はい。どうしましたか?」 「あの木なんですけど……」  俺はピンクの蕾がついた枝を指さした。 「あぁ、あれは桜なんですよ。もうすぐお正月でしょう? 正月飾り用のものの出荷が始まったところなんです」 「桜……」  今や顔馴染みとなった店員が愛想良く説明してくれる。 「ソメイヨシノとは違うけど、色合いもピンクの濃いものから白に近いものまであって、綺麗ですよ」  説明が終わると同時に、俺の口が勝手に動いた。 「この桜を、たくさん取り寄せることはできますか?」 ***  その日の夜、夕食を食べながら息子の咲弥にある計画を話した。 「咲弥、父さんな、母さんのために家でお花見しようと思うんだ」 「家でお花見?」  咲弥はピンときていないようで、真っ直ぐに俺を見つめたまま首を傾げた。 「父さん、今日、花屋で桜をみつけたんだ。だから、リビングにたくさん桜を飾って母さんとお花見をしようと思うんだ」 「あぁ、いいね! きっとお母さん笑ってくれるよ!」 ようやく理解したと満面の笑みで咲弥が返事をした。 「あ! オレ、いいこと思いついた!」 咲弥が目を輝かせながら声を上げた。 「なんだい?」 「今日、クラスの女子が折り紙で花を折ってたんだよ。だから、折り紙で桜を折って、一緒に飾り付けるのはどうかな?」 「あぁ、いいね。折り方を調べて一緒に折ってみよう」 「オレ、意外と折り紙上手だから、まかせて」 「頼もしいな!」  夕食後、早速桜の折り方を調べていると、花くす玉というものがあることを知った。以前、絵美が『ソメイヨシノは満開のときは花がボールみたいに丸く咲くのよ』と話していたことを思い出す。よし、これも折ってみよう。  俺と咲弥は、絵美に気づかれないように少しずつ準備を進めた。
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