ぷろろーぐ

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ぷろろーぐ

 たった一度の勘違いだった。  ミノルくんは夕方いなくなると思っていた。  実際は早朝だったらしい。  あまりに悲惨な失敗に、私は人生で初めて焼き酒をしようとした。  コンビニから帰るとアパートの前に大家さんがいる。 「元気ない? 大丈夫、ヒメちゃん」 「ミノルくんは早朝に出たんですね」 「うん。そうよ」 「どうしよ、私。大好きって言い忘れちゃった」  その言葉がこばれたとき、まだ平気な気がしていた。  でも涙が止まらなくて。 大家さんは優しく抱きしめてくれた。 「ミノルくんはまた来てくれるわ。泣かないで。朝食まだでしょう?」 「うん」 「ごはん一緒に食べましょう。一人で食べるのは私も寂しいわ。人助けだと思って」  大家さんは優しい。  優しさが染みて、この日は焼き酒をする気になれなかった。
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