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2話 こもり姫、まだ寝る。
「あら、ヒメちゃん。おはよう」
「大家さんおはよう。ふわあ、よく寝た」
「そうね。みそ汁とごはんとほうれん草のおひたし、フライドチキンでどうかしら?」
「今から朝ごはんか」
「むむ。長期休暇で眠らないでどうするんですか!」
午前十一時。
布団から出たヒメちゃんは大家さんの部屋で朝食。
どうやら普段から大家の料理をあてにしているらしい。
俺がいたときは三人で食べることも少なくなかった。
懐かしさに込み上げてくるものがあるが、もうこのアパートは無くなるのだ。
俺は来年度から社会人で、このアパートよりさらに実家から遠い他県で生活することになる。
一方で、一つ年下のヒメちゃんは来年度四年生。
このアパートを取り壊す以上、あと一年は住むための部屋を探す必要がある。
「ふわあ」
「ヒメちゃん、ごはん食べながら寝てるのね」
「まだ眠いのか」
……。
「起きろ」
「ふあ」
「なにしてるんだよ」
「眠くて」
「ヒメちゃん、ミノルくんと出掛けてくる?」
「うーむ」
ヒメちゃんは寝ぼけ眼で俺を見る。
頷いてみせた。
「いいぞ」
「じゃあ行きます」
食事を終えて、ヒメは部屋に戻っていった。
が、一向に戻ってこない。
「遅いわねえ。寝てるのかしら」
「まじかよ」
俺は部屋を出てヒメちゃんのもとへ。
扉には鍵がされていない。
そっと入る。
……。
誰もいない。
「きゃ」
「ん?」
声が聞こえて振り返る。
一糸纏わぬ少女の姿があった。
全身から湯気が出ている。
咄嗟に目を背ける。
バスタオルで身体についた水滴を叩くように拭き取る音がする。
「すぐに着ます」
「ごめん」
「シャワーでも良いところでわざわざ湯船に入っていたので。遅いって思ったならその通りです」
衣擦れ。
「もういいですよ?」
「分かった」
露出が多い。
って。
「下着姿じゃねえか!」
「どうしたんですか? 騒がしいですよ」
「全く何を言ってるんだよ」
「遊びに行きましょう!」
「ああ」
胸騒ぎ。
隣にいるヒメちゃんを見ていると感じる。
つい最近までいた、まだ変わるはずのない街を見たくないのかもしれない。
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