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4話 こもり姫、語る。
「もっと食べて」
「鉄板ステーキって、大家さん大丈夫か?」
「まだ若いのには負けてられないわ!」
「フライドポテト、鶏肉の炊き込みご飯、かきたま汁。ちゃんと作ってるな」
「もちろん。あたしもヒメちゃんもミノルくんも育ち盛りよ?」
「八十超えても元気なことで」
「そうね。でもヒメちゃんがいるもの。頼られてるもの。ミノルくんが会いに来てもらえるもの。元気が出るわ」
「大家さん、おかわり!」
「はい、ヒメちゃん。あら、ミノルくんの茶碗空だわ」
「いやいや、もう何杯目だよ。わんこそばじゃないんだぞ」
夜、三人で食卓を囲んで。
よく食べる大家、俺がたまに大きい声を出して、ヒメちゃんは比較的静かに食べる。
この街は住みにくいのだ。娯楽もない、スーパーは少なく遠い。
でもここは温かい。
引っ越す。
距離とかそういう問題ではないのか。
俺だって。その思いが輪郭を帯びる前に押し殺す。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうです!」
「あらあら、こっちまで満足だわ」
それぞれの部屋に戻る。
するとインターホンが鳴った。
缶ビールを持っている。
「座布団しかない」
「新鮮だよな。ここに引っ越したときはもっといろいろあったんだ。でも俺が引っ越して家具とか全部撤去したんだな」
「うん」
「座って」
「私!」
「?」
「ミノルくんを待ってたの。置いていかないでほしかった」
「仕方ないだろ。就職で」
「けど、来てくれるって思ってた。私、引っ越したくない。ここよりもいいところなんてない。楽しくて温かいところはない」
「俺もそう思う」
「私、物は意外と少ないから荷作りはすぐ終わると思う。けど、ここを離れると思うと怖いし寂しい。どこにも引っ越したくないよ。でも一番はね、大家さんを守りたいよ」
ヒメちゃんの弱々しい声。
缶を開けてぐいっと飲む。
よく冷えた缶を受け取った。
「安全上の問題で壊すしかないんだろ」
「うん」
「部屋を見つけないと」
「大家さんはこれから娘の夫婦と一緒に暮らすんだって。でも迷惑かけるのが嫌だって。それに、人生が終わりに向かっていくのが寂しいんだって。私がいなくなったら、あの人は大家じゃなくなる」
ヒメちゃんはアルコールが回って火照ったみたいだ。
だから、瞼が腫れているのも涙があふれているのも気づくのが遅れてしまった。
「そういうことか」
ヒメちゃんの気持ちが分かってしまった。
でも。
「引っ越すしかない。このアパートはなくなる」
「分かってる。意地になって布団に巻かれてても時間が来たら抗えないって。私、もっと早く引っ越せば良かった。ババ抜きみたいになかなか上がれなかったから苦しくなってしまって。私、わがままだよね。でもさ」
ヒメちゃんから涙があふれる。
大きく開いた瞳からすうっと伸びていく。
「私、どうしたらいい?」
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