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6話 こもり姫、片付ける。
結局、日が高く昇ってからヒメちゃんは現れた。
朝食を食べるとヒメちゃんの部屋に呼び出される。
「大家さんから段ボールもらいました。服とかその他もまとめるので手伝って」
「いいけど」
一時間ほどでほとんど片付く。
布団を畳む。
「掃除機借りてきてください!」
「ああ」
部屋が綺麗になるのは寂しいものだ。
「雑巾もらってきました!」
ぴかぴかな部屋と対照的に胸の中はざらついていろんな感情が散らかっていく。
「終わりましたね! もう急いで探すしかない。いつまでもわがままでいられないので」
「そうだな」
わがままではいられない、か。
違うよな。
そうじゃない、そうじゃないはずだ。
ごめん、ヒメちゃん。
俺は大家さんにお礼を言うためにアパートに戻ってきた。
でも今いるところは、引っ越し先は足りないものばかりだった。
ここに忘れたものがあった気がしたから、俺はこの場所に戻ってきたんだ。
社会人がなんだ。
俺は間違っていた。
ろくに引っ越し先を探さないヒメちゃんに苛立って、わがまま言わずに飛び出した前を歩いていた自分に酔っていた。目を背けて仕方ないって思ってた。
でも、立ち止まっていたあいつが一番悩んで一番頑張っていたんだ。
「なあ、俺さ。やっぱり嫌だ。ヒメちゃんと離れるのも、大食い大家さんと話せなくなるのも、思い出が詰まったアパートを離れるのも、社会人としてわがままを押し殺すのも、本当は嫌だったんだ」
「社会人こそ、バブみを求めます。みんな赤ちゃんになって甘えん坊でいろいろ世話してほしいんですよ。頑張らずに褒めてほしいんですよ?」
「くそ、ひきこもり姫が。台無しだよ」
でも。
「私も同意見です。でも一つだけ違います」
「違う?」
「ミノルくんとは離れたくないまでは同じですが、わがままな私としては」
頬に、温もり。
「もう少しだけ期待したいですねっ!」
一瞬狼狽えてしまったが、俺もわがままを言うべきだ。
「俺は」
「俺は?」
ヒメちゃんの笑顔があまりにもかわいらしくて、息がうまく吸えなかった。
唾を飲み込む。
もう一度吸う。
「大好きな人と恋人になりたい」
「誰ですか? ミノルくんの大好きな人って」
「ヒメちゃんです」
声が小さくなってしまった。
ヒメちゃんを見ると頬に手を当てて固まっている。
それから。
「王子様にしては迎えに来るのが遅いくせに。姫を不安にさせないでください」
「ごめん」
「次こそは遅れずに来てくださいね?」
「ああ」
……。
後ろに視線を感じる。
じーっと。
「「大家さん?」」
ヒメちゃんと息ぴったりでいう。
「良かったわ。囚われの姫を城が崩壊する前に無事に救出できて。ね?」
「もう、ミノルくんがなかなか挨拶に来ないので!」
「そうね、本当にひどいわ」
「大家さん!」
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