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優しい風が吹く桜並木をカスィは宗十郎と並んで歩く。互いの話をして、三日月と星と桜の共演を楽しんだ。
公園の敷地をまるごと買い取り、尚且つ桜が害されないように高層屋上に環境を整え、入る人間も厳しく制限した宗十郎の孫は霊感があるようで桜危うしとなって荒ぶる宗十郎に大層怯えて命懸けでやってのけたという次第。
「あまりお孫さんを怖がらせてはいけませんよ」
『あいつは有能だけど気が弱い。でも、やる時はやるってわかって良かったと思うぜ。それに……あれだけ怖がれば俺の遺言はまだ守られる』
「宗十郎……」
『…………60年。俺は遺言が果たされるか見ていた。同じ血を引いていても人は個だ。反対意見も出る。実際、遺言が危うい時もあった。だが、約束は続いた。俺の想いはちゃんと100年受け継がれた。……すごいだろう。人間の寿命はお前達に届かないがこうした形で繋ぐことができる』
「えぇ……えぇ、本当に人間は、いいえ、宗十郎はすごい人です」
カスィは万感の思いを込めて頷いた。
長い語らいもうすぐ夜明けという頃、カスィは宗十郎にお願いをすることを思いついた。大好きな桜の木。思い出が宿る花。
「宗十郎。これらの桜、1本ずつ挿し木に頂けませんか?」
『それは構わないが……どこに植えるんだ?』
「私の故郷に」
『!』
「母星は各星の素晴らしい文化や滅びに瀕したものを守る過程で色々な植物の栽培方法を研究しているんです。研究が進んだ今なら試せる……絶対に咲かせたい」
熱意を籠めたカスィをぽかんと見ていた宗十郎は楽しそうに笑い出した。
『地球の花が宇宙に旅立つのか。しかも宇宙人の手で! 壮大な計画だな』
「きっと、ここのような桜の公園を造ります。だから……生まれ変わったら宇宙人になるのは如何ですか」
『ありかもな。……さてと、いい加減に逝くか』
「ありがとう、宗十郎。きっとまた桜の下で」
『おう』
離れた位置に降りた死神の方へ宗十郎が歩いていく。死神が一礼した。桜の花が見送るように風に舞う。カスィはしばしその場に佇み見送った。眩しい光に目を細め、青空に映える桜を見渡し微笑んだ。
「昼の桜も綺麗ですね」
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