邂逅

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邂逅

 「……何者だ?」  その影は突然現れたように見えた。(やなぎ) 宗十郎(そうじゅうろう)は思わず口から()れた声を(おさ)えるように口を手で(おお)った。時遅し、声に振り向いた男?は宗十郎をひたと()ていてその瞳の異様さに息をのむ。これは人間ではないのだと一瞬で悟る。  人でいう黒目が4色に分かれ、あまりにも鮮やかな赤、吸い込まれそうな紫、草がざわめく音が聴こえそうな緑、青空の青が一対こちらを見つめている。肌は雪のように白く、髪だけは自分と同じ黒。見た目が人型なだけに異様さが際立つ。  「zr……ァ……ぇ……これで、言葉はわかります、か?」  首を傾げた男の口から響いたラジオの音を調整するような雑音が驚いたことに日本語に修正された。やや抑揚(よくよう)に欠ける静かな声だ。相手に敵意がないなら(おく)するべきではない。宗十郎は覚悟を決めて向き合った。  「ああ、わかる。……貴殿(きでん)は、人間ではないな。何が目的だ?」  事と次第によっては荒事(あらごと)になると内心の緊張を(かく)して答えを待つ。男はすっと視線を道の(わき)、花が咲き誇る桜を見上げた。  「葉まで、赤く染まっているように見えました。淡い色なのに、燃えているよう……私は、これを美しいと、思います」  宗十郎は瞠目(どうもく)して、それからふっと肩の力を抜いた。宗十郎にとってもこの桜並木はお気に入りで今宵(こよい)も夜桜散歩と(しょう)して歩いていたのだ。日本人はなぜか桜に思い入れが強い気がする。だからだろうか、桜を美しいといったこの人で()らざる者と話してみたくなった。  「これはヤマザクラという。大都会とは種類が違う。俺も、桜を観るのが好きだ」  「桜、種類……どうやら私は、白い桜よりこっちが好き?なようです」  「なんで疑問形なんだ」  「好きという感情が、よくわからない、から」  そう言いながらも視線が桜から離れることはなく、その行動が男の気持ちを語っていた。宗十郎はまだ若い桜並木を見渡す。  「俺は柳 宗十郎。これから大きなことを()()げる予定の男だ」  「カスィと呼ばれます。……想像の通り、私はこの星の者ではありません。長い寿命、たくさんの旅、文化、知識を持ち帰ります」  「へぇ……」  答えてもらえるとは思っていなかった宗十郎は驚いたが、ますますカスィに興味が()いた。まだはっきりとは決めていないが、何かを成そうと思うのならありとあらゆるものを受け入れ、歩み寄り、たくさんの新たな感情や知識を蓄えて行こうと決めている。単純に考えても宇宙人と話せるなんてなかなかない経験だ。  「ここは日本って国の北に位置するでっかい島だ。海で(へだ)たれているから島でいいはずだ、うん」  「…………あなたは、私が怖くないのですか?」  「めったにない出会いを怖がって逃げちゃもったいないだろう」  あえて胸を張って(うなず)くと、カスィは(かす)かに笑みに似たものを見せた。パッと見は青年。向き合えば人外。それでも同じものを美しいと思えるなら話せるはずだ。その確信を得て宗十郎は公園を指し示す。  「俺も、カスィ……言いづらいな……とりあえず、この花に()かれるなら敵じゃない、だろ?」  「はい。争いは好みません」  はっきりと頷いたカスィは言葉を探すように目を泳がせ、自分の頬を(さす)って今度はそれとわかる笑顔で告げる。  「あなたに会えて、良かったです」
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