伸明 12

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…ピラミッドが、崩れるように、崩れる…  これは、意味深…  実に、意味深だった…  すると、マミさんが、  「…五井は、連合体…五井本家を頂点として、東西南北の4つの分家が、それに次ぐ…そして、他の8家の分家がある…だから、それを、合わせて、五井十三家と、世間で、呼ばれている…」  「…」  「…そして、寿さん、覚えているかな?…」  「…なにを、ですか?…」  「…五井の企業の成り立ち…」  「…成り立ちですか?…」  「…これは、日本の会社の典型…」  「…典型? …どういう意味ですか?…」  「…ほら、例えば、五井銀行…」  「…五井銀行が、どうかしたんですか?…」  「…五井銀行は、本家の直轄…」  「…本家の直轄?…」  「…つまり、五井でも、大きな企業は、本家の直轄だったり、五井十三家が株を持つ、五井の持ち株会社が、その会社の株を持って、その会社を支配している…」  「…」  「…でも、それほど、大きくない会社は、違う…」  「…違う? …なにが、違うんですか?…」  「…本家でも、西家でも、南家でも、要は、五井十三家に、相談することなく、自分で、会社を作れる…」  「…自分で、会社を作れる?…」  「…今、寿さんに言った、五井は、日本の会社の典型と言ったのは、そういうこと…」  「…そういうことって?…」  「…日本でも、戦前…つまり、第二次世界大戦前は、三井でも、三菱でも、会社を作るには、本社が、決めて、作った…だから、会社の数は、例えば、二十とか、少なかった…」  「…」  「…それが、戦後になると、一転、大きな会社は、何百と、子会社を作った…どうしてだか、わかる? …寿さん?…」  「…わかりません…」  「…そうよね? …いきなり、そんな話を振られても、わからないわよね…」  「…」  「…答えは、本社が、関わらなくなったから…」  「…本社が、関わらなくなった? …どういう意味ですか?…」  「…つまり、戦前は、今も言ったように、本社主導…本社で、会社を作るか否か、決めた…」  「…」  「…それが、戦後になると、例えば、三井で、言えば、三井化学とか、三井海運があると、それぞれが、本社に相談することなく、三井化学あるいは、三井海運独自で、会社を作ることになった…そして、その作った会社が大きくなると、それぞれが、親会社に相談することなく、子会社、孫会社を、作った…だから、ネズミ算ではないけれど、戦後は、戦前に比べて、比較にならないほど、会社の数が、増えた…」  「…」  「…それが、一体?…」  「…つまりは、五井も同じ…」  「…なにが、同じなんですか?…」  「…今も言ったように、子会社が、本社に相談することなく、会社を作る…それが、同じ…」  「…」  「…寿さん? 覚えてないかな?…」  「…なにを、覚えてないんですか?…」  「…今も言ったように、五井銀行は本家直轄だけれども、五井は、基本的に、東西南北も含め、いわゆる五井十三家に図ることなく、自分たちで、会社を作った…例えば、西家が、ホテル事業を起こしたり、南家が、鉄道事業を起こしたりした…」  「…」  「…そして、それゆえ、全体のパワーバランスに歪みが、生じた…」  「…歪みが、生じた…どうして、生じたんですか?…」  「…今も言ったように、各分家が、それぞれ、会社を作ったことにより、業績が、好調な会社を持つ分家と、持たない分家に分かれた…だから、歪みが、生じた…」  「…」  「…本来、五井は、五井の持ち株会社の株を一族で、血の濃さによって、分けて、持っている…本家が、30%、東西南北の分家が、それぞれ、10%…そして、残りの30%を、それ以外の8家で、分けて、持っている…それで、五井の力関係が、保たれている…」  「…」  「…でも、今回、ある分家が持つ、会社が、飛躍的に業績が伸びて、五井のパワーバランスが、崩れかけてきた…それが、今回の騒動の遠因…」  「…遠因?…」  「…直接は、関係ない…でも、そのせいで、パワーバランスが、崩れかけている…」  「…崩れかけている?…」  「…そう…」  「…それで、崩れかけると、どうなるんですか?…」  「…そこよ…寿さん…」  マミさんが、力を込める…  「…最悪、五井が、崩壊する…」  「…エッ?…」  「…崩壊…バラバラになる…」  「…ウソ?…」  「…ウソじゃないわ…」  「…」  「…だから、今、五井は、FK興産の株を半分買った…」  いきなり、言った…  いきなり、本題に入った…  それまでは、前振り…  いわゆる、前座だったのだろう…  が、  どうして、いきなり、そこで、FK興産の話になるのか?  それが。わからなかった…  「…FK興産は、可能性がある…」  「…可能性ですか?…」  「…ホントは、寿さんの手前、こんなことを、したくなかったんだけれども、仕方がなかった…ごめんなさい」  「…どういう意味ですか?…」  「…五井の分家が、FK興産を狙っていたの…」  「…エッ? ウソ!…」  「…ウソじゃない!…ホント!…」  「…だから、先手を打つ意味で、FK興産の株を手に入れることにした…」  「…」  「…でも、寿さんと、藤原さんの手前もある…だから、半分だけ、手に入れた…」  マミさんが、以外なことを、言った…  これまで、全然、聞いたことのない話を言った…  あのユリコが言った話と、全然違う話を言った…  果たして、信じられる?  どちらが、信じられる?  心の中で、葛藤した…  もちろん、私は、マミさんが好き…  しかしながら、マミさんは、五井家の人間…  だから、心の底から、信用できない…  真逆に、ユリコは、信用できないが、あながちユリコの言うことが、信じられなくもない…  もっともだと、思う面もある…  だから、葛藤した…  心の中で、葛藤した…  そんなときだった…  マミさんが、意外なことを、言った…  「…寿さん…アナタもまた取り込まれている…」  と、意外なことを、言った…  …エッ?…  …私が、取り込まれている?…  …どういうこと?…  私が、思っていると、  「…長谷川センセイ…寿さんの主治医の…」  「…長谷川センセイが、どうかしたんですか?…」  「…長谷川センセイが、五井の一族だってこと…寿さんも知っているわね?…」  「…ハイ…」  曖昧に返事をした…  と、同時に、知っていた!  やはり、マミさんも知っていた!  と、思った…  同時に、このマミさんもまた、私のことを、調べている…  私のことを、調査していると、気付いた…  私に優しく接しながらも、私のことは、調べている…  念入りに調査していると、今さらながら、気付いた…  だから、簡単に長谷川センセイの名前が出た…  そう、思ったのだ…  「…でも、ここで、言いたいのは、長谷川センセイのことじゃない…」  マミさんが、言った…  思いもかけないことを、言った…  「…では、どうして、長谷川センセイのことを?…」  私は、聞いた…  聞かざるを得なかった…  「…問題は、長谷川センセイの助手というか…」  「…助手? ですか?…」  「…長井って、新人の看護師の女の子が、いるでしょ? …大学を卒業したばかりぐらいの…」  マミさんが、言った…  いきなり、言った…  私は、マミさんの言葉で、長井さんを、思い出した…  これまで、考えたことはない…  失礼ながら、すっかり忘れていた、長井さんのことを、思い出した…  「…長井さんが、どうかしたんですか?…」  「…長井さんは、五井家の人間…」  「…エッ? …五井家の人間…長井さんが?…」  「…五井の本家と東西南北の4家以外の分家の一つ、五井長井家の人間…」  「…五井長井家…」  初めて、聞く名前だ…  私は、思った…  思ったのだ…  同時に、気付いた…  その五井長井家の人間が、長谷川センセイの近くにいる…  これは、偶然…  偶然だろうか?  普通に考えれば、偶然なわけはない…  意図的に、長谷川センセイの近くにいるに、決まっている…  なにより、長井さんは、たしか、長谷川センセイを、  「…叔父サン…」  と、呼んでいた…  長谷川センセイの姪だと言っていた…  ということは、どうだ?  アレは、ウソ?  真っ赤なウソ?  それに、気付いた…  今、マミさんが、言ったように、あの長井さんが、五井長井家の人間なら、五井西家の末端を自称する、長谷川センセイと、叔父と姪の関係であるはずが、ないからだ…  だから、ウソ…  ウソに決まっている…  私は、思った…  思いながら、  「…だったら、二人の関係は?…」  と、マミさんに、聞いた…  聞かざるを得なかった…  「…叔父と姪…」  マミさんが、間髪を入れず、答えた…  …エッ?…  …ウソじゃない?…  …ホントだった?…  私は、驚いた…  私は、この話を聞いて、てっきり二人の関係は、ウソだと、思ったからだ…  「…あの長谷川センセイのお姉さんが、五井長井家に嫁いでいるの…」  「…ウソ!…」  私は、言った…  ビックリして、言った…  …だったら?…  …だったら、一体、長井さんの目的は、なに?…  …一体、なに?…  私は、思った…  思ったのだ…  そして、迷わず、その疑問を口にした…  「…だったら、マミさん…あの長井さんの目的は、なんですか? …どうして、長谷川センセイの元にいたんですか?…」  「…それは…」  「…それは?…」  「…寿さん…アナタに会うためよ…」  マミさんが、言った…  思いもかけないことを、言った…                <続く>
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