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…ピラミッドが、崩れるように、崩れる…
これは、意味深…
実に、意味深だった…
すると、マミさんが、
「…五井は、連合体…五井本家を頂点として、東西南北の4つの分家が、それに次ぐ…そして、他の8家の分家がある…だから、それを、合わせて、五井十三家と、世間で、呼ばれている…」
「…」
「…そして、寿さん、覚えているかな?…」
「…なにを、ですか?…」
「…五井の企業の成り立ち…」
「…成り立ちですか?…」
「…これは、日本の会社の典型…」
「…典型? …どういう意味ですか?…」
「…ほら、例えば、五井銀行…」
「…五井銀行が、どうかしたんですか?…」
「…五井銀行は、本家の直轄…」
「…本家の直轄?…」
「…つまり、五井でも、大きな企業は、本家の直轄だったり、五井十三家が株を持つ、五井の持ち株会社が、その会社の株を持って、その会社を支配している…」
「…」
「…でも、それほど、大きくない会社は、違う…」
「…違う? …なにが、違うんですか?…」
「…本家でも、西家でも、南家でも、要は、五井十三家に、相談することなく、自分で、会社を作れる…」
「…自分で、会社を作れる?…」
「…今、寿さんに言った、五井は、日本の会社の典型と言ったのは、そういうこと…」
「…そういうことって?…」
「…日本でも、戦前…つまり、第二次世界大戦前は、三井でも、三菱でも、会社を作るには、本社が、決めて、作った…だから、会社の数は、例えば、二十とか、少なかった…」
「…」
「…それが、戦後になると、一転、大きな会社は、何百と、子会社を作った…どうしてだか、わかる? …寿さん?…」
「…わかりません…」
「…そうよね? …いきなり、そんな話を振られても、わからないわよね…」
「…」
「…答えは、本社が、関わらなくなったから…」
「…本社が、関わらなくなった? …どういう意味ですか?…」
「…つまり、戦前は、今も言ったように、本社主導…本社で、会社を作るか否か、決めた…」
「…」
「…それが、戦後になると、例えば、三井で、言えば、三井化学とか、三井海運があると、それぞれが、本社に相談することなく、三井化学あるいは、三井海運独自で、会社を作ることになった…そして、その作った会社が大きくなると、それぞれが、親会社に相談することなく、子会社、孫会社を、作った…だから、ネズミ算ではないけれど、戦後は、戦前に比べて、比較にならないほど、会社の数が、増えた…」
「…」
「…それが、一体?…」
「…つまりは、五井も同じ…」
「…なにが、同じなんですか?…」
「…今も言ったように、子会社が、本社に相談することなく、会社を作る…それが、同じ…」
「…」
「…寿さん? 覚えてないかな?…」
「…なにを、覚えてないんですか?…」
「…今も言ったように、五井銀行は本家直轄だけれども、五井は、基本的に、東西南北も含め、いわゆる五井十三家に図ることなく、自分たちで、会社を作った…例えば、西家が、ホテル事業を起こしたり、南家が、鉄道事業を起こしたりした…」
「…」
「…そして、それゆえ、全体のパワーバランスに歪みが、生じた…」
「…歪みが、生じた…どうして、生じたんですか?…」
「…今も言ったように、各分家が、それぞれ、会社を作ったことにより、業績が、好調な会社を持つ分家と、持たない分家に分かれた…だから、歪みが、生じた…」
「…」
「…本来、五井は、五井の持ち株会社の株を一族で、血の濃さによって、分けて、持っている…本家が、30%、東西南北の分家が、それぞれ、10%…そして、残りの30%を、それ以外の8家で、分けて、持っている…それで、五井の力関係が、保たれている…」
「…」
「…でも、今回、ある分家が持つ、会社が、飛躍的に業績が伸びて、五井のパワーバランスが、崩れかけてきた…それが、今回の騒動の遠因…」
「…遠因?…」
「…直接は、関係ない…でも、そのせいで、パワーバランスが、崩れかけている…」
「…崩れかけている?…」
「…そう…」
「…それで、崩れかけると、どうなるんですか?…」
「…そこよ…寿さん…」
マミさんが、力を込める…
「…最悪、五井が、崩壊する…」
「…エッ?…」
「…崩壊…バラバラになる…」
「…ウソ?…」
「…ウソじゃないわ…」
「…」
「…だから、今、五井は、FK興産の株を半分買った…」
いきなり、言った…
いきなり、本題に入った…
それまでは、前振り…
いわゆる、前座だったのだろう…
が、
どうして、いきなり、そこで、FK興産の話になるのか?
それが。わからなかった…
「…FK興産は、可能性がある…」
「…可能性ですか?…」
「…ホントは、寿さんの手前、こんなことを、したくなかったんだけれども、仕方がなかった…ごめんなさい」
「…どういう意味ですか?…」
「…五井の分家が、FK興産を狙っていたの…」
「…エッ? ウソ!…」
「…ウソじゃない!…ホント!…」
「…だから、先手を打つ意味で、FK興産の株を手に入れることにした…」
「…」
「…でも、寿さんと、藤原さんの手前もある…だから、半分だけ、手に入れた…」
マミさんが、以外なことを、言った…
これまで、全然、聞いたことのない話を言った…
あのユリコが言った話と、全然違う話を言った…
果たして、信じられる?
どちらが、信じられる?
心の中で、葛藤した…
もちろん、私は、マミさんが好き…
しかしながら、マミさんは、五井家の人間…
だから、心の底から、信用できない…
真逆に、ユリコは、信用できないが、あながちユリコの言うことが、信じられなくもない…
もっともだと、思う面もある…
だから、葛藤した…
心の中で、葛藤した…
そんなときだった…
マミさんが、意外なことを、言った…
「…寿さん…アナタもまた取り込まれている…」
と、意外なことを、言った…
…エッ?…
…私が、取り込まれている?…
…どういうこと?…
私が、思っていると、
「…長谷川センセイ…寿さんの主治医の…」
「…長谷川センセイが、どうかしたんですか?…」
「…長谷川センセイが、五井の一族だってこと…寿さんも知っているわね?…」
「…ハイ…」
曖昧に返事をした…
と、同時に、知っていた!
やはり、マミさんも知っていた!
と、思った…
同時に、このマミさんもまた、私のことを、調べている…
私のことを、調査していると、気付いた…
私に優しく接しながらも、私のことは、調べている…
念入りに調査していると、今さらながら、気付いた…
だから、簡単に長谷川センセイの名前が出た…
そう、思ったのだ…
「…でも、ここで、言いたいのは、長谷川センセイのことじゃない…」
マミさんが、言った…
思いもかけないことを、言った…
「…では、どうして、長谷川センセイのことを?…」
私は、聞いた…
聞かざるを得なかった…
「…問題は、長谷川センセイの助手というか…」
「…助手? ですか?…」
「…長井って、新人の看護師の女の子が、いるでしょ? …大学を卒業したばかりぐらいの…」
マミさんが、言った…
いきなり、言った…
私は、マミさんの言葉で、長井さんを、思い出した…
これまで、考えたことはない…
失礼ながら、すっかり忘れていた、長井さんのことを、思い出した…
「…長井さんが、どうかしたんですか?…」
「…長井さんは、五井家の人間…」
「…エッ? …五井家の人間…長井さんが?…」
「…五井の本家と東西南北の4家以外の分家の一つ、五井長井家の人間…」
「…五井長井家…」
初めて、聞く名前だ…
私は、思った…
思ったのだ…
同時に、気付いた…
その五井長井家の人間が、長谷川センセイの近くにいる…
これは、偶然…
偶然だろうか?
普通に考えれば、偶然なわけはない…
意図的に、長谷川センセイの近くにいるに、決まっている…
なにより、長井さんは、たしか、長谷川センセイを、
「…叔父サン…」
と、呼んでいた…
長谷川センセイの姪だと言っていた…
ということは、どうだ?
アレは、ウソ?
真っ赤なウソ?
それに、気付いた…
今、マミさんが、言ったように、あの長井さんが、五井長井家の人間なら、五井西家の末端を自称する、長谷川センセイと、叔父と姪の関係であるはずが、ないからだ…
だから、ウソ…
ウソに決まっている…
私は、思った…
思いながら、
「…だったら、二人の関係は?…」
と、マミさんに、聞いた…
聞かざるを得なかった…
「…叔父と姪…」
マミさんが、間髪を入れず、答えた…
…エッ?…
…ウソじゃない?…
…ホントだった?…
私は、驚いた…
私は、この話を聞いて、てっきり二人の関係は、ウソだと、思ったからだ…
「…あの長谷川センセイのお姉さんが、五井長井家に嫁いでいるの…」
「…ウソ!…」
私は、言った…
ビックリして、言った…
…だったら?…
…だったら、一体、長井さんの目的は、なに?…
…一体、なに?…
私は、思った…
思ったのだ…
そして、迷わず、その疑問を口にした…
「…だったら、マミさん…あの長井さんの目的は、なんですか? …どうして、長谷川センセイの元にいたんですか?…」
「…それは…」
「…それは?…」
「…寿さん…アナタに会うためよ…」
マミさんが、言った…
思いもかけないことを、言った…
<続く>
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