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「すみません、高杉さん、ちょっといいですか」
「白石。どうした」
「宮様が、出られません」
「出られませんとは。トイレ?」
「いや違います。いやだって言うんです。明日の「花見の会」に出たくないと」
「ふーん」
高杉さんは席次表から目を離して、にやりと僕に笑いかけた。
「それをどうにかするのが、ホテリエだよね?」
クレーム対応で大切なことは、何はなくとも傾聴なのだよ、白石くん。
今回も同様。宮様の思いを、全部言わせて差し上げる。おなかの中にたまったものを全部吐き出す。そしたら、からだに余白が生まれるものだから。そうなったらきっと宮様も、こちらのお願いにも耳を傾けていただけるだろうよ。
うん、うん。高杉さんは腕組みをして、しみじみとうなずいた。
僕は困惑した。傾聴……。そんなスキル、僕にはないよ。
「まぁ、全然話が通じないわけじゃないんだよ。去年もごねられたけど、結局お出になられたからね。まぁ何ていうか、ちょっと暇なのかもね」
「そんな」
「大丈夫、だーいじょーぶ。がんばれ、三年目」
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