幸せクローバー

4/5
62人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 さっき見ていたあたりはきっとなさそうだから、少し離れた場所にしよう。  あの子がいる場所から通りを一本挟んだ場所にある、木の根がゴツゴツし、少しジメッとした場所を見つける。  誰もいないしちょうどいい。その地面をじっくりと眺めていた時だった。俺の目に、四葉のクローバーが飛び込んできたのだ。 「えっ、マジで見つけちゃったよ」  ゴクリと唾を飲み込み、取ろうとしたけど一度手を止める。これって俺が取ったら意味ないんじゃないか?  そう思って辺りを見渡し、地面に落ちた桜の花びらを掻き集めると、四葉のクローバーを隠すように上から散らした。  そして慌てて彼女の元へと走っていく。早く見せてあげたいーーそうしたら笑顔を見せてくれるかな?  俺は通りを越え、彼女の前に勢いよくしゃがみ込んだ。すると女の子はびっくりしたように、一瞬飛び上がったのがわかった。 「な、何ですか?」  俺は彼女の手を取り、 「ついてきて!」 と走り出す。 「えっ、な、何ーー」  彼女の返事を待たずに、とにかくさっきの場所に戻った。それから目印の山盛りになった桜の花びらを確認して、鼻息を荒くした。 「この辺ならありそうじゃない⁈」  女の子はまた眉間に皺を寄せて俺を見たから、ばれたんじゃないかと一瞬ドキッとした。しかしそのまましゃがみ込んで下を向いたため、ホッと胸を撫で下ろす。  女の子は桜の花びらの山に気付き、それをそっとどかし始めた。 「あっ……あった……」 「おぉっ! 見つかった! 良かった良かった!」  しかし女の子は未だに目を細めて俺を凝視していた。あぁ、これは完全にバレてるやつだ。素直に認めた方がいいのだろうか。 「……まるで小さな桜の木ね」  女の子がポツリと呟いた。  なんのことかわからなかった俺は、足元をよく見てみる。ゴツゴツした木の根がまるで桜の幹で、山盛りになった花びらは、桜の花を咲かせているように見えた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!