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ピンポーン。
インターホンの画面をのぞくと、背広姿の男の人が立っていた。
「すみません、お庭にお邪魔してもよろしいでしょうか」
と言うのである。
え、こわい。
普通にそう思ったので、
「えーと、結構です」
と答えた。
あ、間違えた。
無理もない。
近ごろ、あまり会話をしていないからだ。親とか友だちと遠く離れた場所に来てしまったから。
だから、ついうっかりと「結構です」という言葉を使ってしまった。
「結構です」には、「All right.」と、「No thank you.」、全然違う意味があることは、辞書に掲載されている通りである。男の人は、前者のほうに解釈してしまった。
「では、失礼致します」
そう言って、フッと画面から消えたのである。
「あっ。だめ」
つぶやいてドアを開けた時には遅かった。もう門扉は開かれたあとで、男の人は軒先にある小さな庭に入りこんでしまっていた。
「あの、ちょっと、えーと」
とか何とかごちゃごちゃ言いながらついていくと、男の人は急に立ち止まり、
「いましたね」
そんなふうに、いきなり下に向かって話しかけ始めた。
驚いたのは、
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