おじゃまします、春です

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「見つかったか」  と、声が返ってきたことである。  とたん、ぽん、と空気がはじけて、目の前に急に女の子が現れた。 「まったくもう。探しましたよ」 「だって、まだ寒いし」 「それは、あなたのせいでしょう。何でここにいるんですか」 「それは、」  女の子は私を見上げた。そして、 「……ここは居心地がいいから」  と言った。 「居心地がいい、とは」 「だってとても静かで、まるで冬のようだから」 「おやおや」  男の人は苦笑いをした。ちょっとイラっとしているようだ。 「それでも「春」ですか」  ピリピリ、男の人から不快なオーラが発生している。  私は思わず頭を下げた。 「ごめんなさい。「冬のような家」で」 「……あ」  私の声に反応して、やっと男の人は私を思い出したようだった。 「申し遅れました。私、春の使者です。そしてこちらが、春です」 「はる」  何も理解できず言われた言葉を繰り返すと、まる、と母音が同じだからか、「○」をつけたみたいに響いた。ふたりも、なぜかほめられたかのようにはにかんだ。 「このごろ、寒いでしょう。全部この人のせいなんです」  と春の使者は言った。
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