事故物件

　引っ越し当日。
　私は友人でもあり高校の先輩でもあった、徹さんに連絡をとって、引っ越しの手伝いをしてもらえるよう約束していました。彼は車を持っていたので図々しくもお願いしたのですが、二つ返事で了承してくれました。もっとも殆どの荷物は業者さんに委託していたので、持ち出すのは身の回りの手荷物と飼っているペットくらいでしたが。
　当初は弾んでいた会話も新居が近づくにつれ、どんどん少なくなっていきました。私は新しい生活への夢の真っ只中にいたので、返事もろくにないのに一人で喋りまくっていた記憶があります。
　新居は一見しても特に代わり映えのないアパートであり、部屋の中も下見した時のままでした。荷物を紐解きながら、私はウキウキで色々彼に話しかけていましたが、やっぱり徹さんはまともな返事を返してはくれませんでした。
　結局、運搬が一通り終わると、一杯のお茶も飲まずに彼はそそくさと帰って行ったのでした。