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2.シャトーブリアンと食べ放題
結局、健太は最後までメイドを続けた。そういうことがあったので、大手町の乗り換えの時、ぼくは訊いた。
「今日はそういう格好でよかったの?」
「うん。翔ちゃんが喜んでくれるかなって」
「あ、そうですか」
文化祭の時にぼくはそんな雰囲気出してたかな。相談に乗ってた時に視線がついつい太ももにいっちゃってかも。ごめん。
「今日はお姉ちゃんがメイクとかやってくれたんだ」
彼のお姉さんもかなりの美形だが、方向性が違っていて高身長でキリっとしてて「学園の王子様」だそうだ。もちろん弟を溺愛している。
目の周りは黒と赤でしっかり化粧してるけど、それ以外はあまりわからない。元々肌は透き通るようだし、唇は赤い。
「ファンデもコンシーラーも要らないって言ってた」
前の座席のOLさんがピクッと反応してる。
余談だけど、文化祭の後、唇を奪われそうになるという事件があった。怖がってべそをかいてる健太を連れて職員室に行った。
「肉食女子だねえ」
「先生、キスを迫るって逆だったら大問題ですよ」
「そうなんだよね。きっちり言っとくよ。おまえら和牛のシャトーブリアン食べられるような身分じゃないって」
「和牛? シャトーブリアン?」
「例え話だよ。焼肉食べ放題がお似合いだって」
無茶苦茶言うなぁ。
「わざわざ光硬化なんとか買って来てこんなふうに」と爪を見せてくれる。
黒を基調として、赤い線がシュっと入っている。
「よく知らないけど、センスいいね」
マニキュア以上に白魚のような指が目を惹く。
「うん、素材がいいとインスピレーション湧くんだって」
本当にそうだ。この世は素質と才能。それがあると勝手に良いものが寄って来て盛り上げてくれる。藤代さんは健太という素材を見出し、ゴスロリという魔法をかけて弾けさせた。彼女がどういう志望を抱いているかは知らないけど、将来の彼女はそういう方向に行くと確信した。
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