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4.薔薇の名前
小石川植物園に着いた。入り口の案内板を見ると園内は横に長く、入口から見えるトイレと照らし合わせるとかなり広い。さすがは東大の施設だ。
「どっちから行く?」
「時計回りに、左から」
「わかった」
あちこちに白い星のような花が咲いている。
「きれい。かわいい」
「うん」
「なんて名前?」
植物園のサイトから見つける。
「ハナニラっていうみたい」
「……ちょっとがっかり」
「確かに。でも、薔薇はどんな名前で呼んでも甘く香るってジュリエットは言ってる」
「ジュリエットっていい人」
ウンベルトエーコが『薔薇の名前』って本を書いて、映画にもなって、いろいろ穿った解釈があったんだけど、シェイクスピアの台詞との関係に触れた人はいたんだろうか。
「もうツツジ咲いてるんだ」
ぼくは桜が散ってからツツジが咲くように思っていた。
「あの赤い花はツツジなんだね」
「知らなかった?」
「道端とか垣根とかでよく見る花だね」
「植え込みに多いのは排気ガスに強くて、空気をキレイにしてくれるからとか言うね」
「ツツジって木? 草?」
「木、だと思う」
ちょっと言い淀んだのは木と草の違いがわかっているようで、正確にはわかっていないような気がしたからだ。
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