5人が本棚に入れています
本棚に追加
5.April, Come He Will
ようやく桜が見えて来た。いろんな品種があるけど、八重桜が多いようだ。
「きれいだねえ。すごくきれい」
とてもいい笑顔をしてる。写真を撮りたい、一緒に自撮りしたい。でも、男子がそういうことをするのは抵抗を感じる。途切れがちな会話を埋めるように小さな声で口ずさむ。
「その歌、最近よく唄ってるね。なんて曲?」
「April, Come She Willーー四月になれば彼女はって訳されてるかな」
「そっか四月の歌なんだね」
いや、そうじゃないんだけど、四月のさわやかな風はシルフィーにふさわしい。
温室の前にメンデルのぶとうの木とニュートンのリンゴの木が並んでいた。
「あのさ、メンデルってエンドウ豆じゃなかった?」
シルフィーもぼくも生物を取っている。
「そうだね。大人の事情ってやつじゃないか」
エンドウ豆はたぶん草だから持って来れなかったんだろう。
温室の中には変わった植物がいろいろあった。とは言え、前に一人で行った市川の動植物園や夢の島熱帯植物館の方が多彩だったような気がする。
「ここは研究施設だから」と結論めいたことだけ口にする。
「あの建物もそんな感じだよね」
「この坂を下りると入って来たところに戻るね。もういい?」
「もう一度桜見たい。かまわない?」
「ああ」
最初のコメントを投稿しよう!