お花見

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お花見

『お花見』なんて私にとっては疎遠の話。 学校でも、友達を誘ってお花見に行く予定を立ててる生徒があちらこちらに見受けられる。 何故そこまでして、桜の下でご飯を食べたがるのか理解出来ない。 お花見なんて…悪い思い出の一つに過ぎないというのに。 ˚✩∗*゚⋆。˚✩☪︎⋆。˚✩˚✩∗*゚⋆。˚✩⋆。˚✩ 私の母は、心臓病を抱えていた。その事を私には隠して、無理してまでお花見に連れて行ってくれた。 憧れていた、家族とのお花見。私は、嬉しくて興奮していた。 「ねぇねぇ、ママ。お弁当何が入ってるの〜?」 「それはね〜、開けてからのお楽しみだよぉ〜。」 母は、自分の事よりも家族を他人を優先してしまうところがあった。今思えば、あのお弁当もきっと私の為に無理をして作ったんだと思う。 そうとは思わせないほど、母のお弁当は絶品だったのを覚えている。 父は、お弁当を少しだけ食べてはいたが焦っているようにも見えた。 「ごちそうさまでした〜!」 「美味しかった?」 「うん! またみんなで食べたいな〜!」 「そうだね…!」 満開の桜の下で、私は母にそう言ったのだ。でも、その願いは一瞬にして崩れ落ちた。 父と少し遊具で遊んでいた頃。私は、桜の下でゆっくりと本を読んでいる母を見つけ手を振った。 「ママ〜、ここまで登ったんだ〜!」 「凄いね、でも足元には気をつけるのよ〜。」 「うん!」 笑顔で手を振り返してくれた母は、ブルーシートに胸を押えながら倒れた。 それに気がついた父は、走って母の元へ向かっていた。私もその背中を追って母の元へ走った。 「ママ、どうしたの?」 「だ、大丈夫だよ。疲れて倒れちゃったんだよ…。」 普段嘘を言わない父が初めて私に嘘をついた。 病院に運ばれ、母の体には機械が沢山繋がれていた。幼かった私は、とても怖かった。 「ママ、いつ起きるのかな?」 「そうだね、早く…起きて欲しいね…。」 父の目からは、大粒の涙が頬を伝って流れ落ちていた。 父の想いが通じたのか、母は少しだけ意識を取り戻した。 「あなた、ごめんなさい…。まだ、大丈夫だって思ってたのになぁ。無理しすぎちゃったよ…。 私、もうダメみたい…。だから、桜をよろしくね…。」 「そんな事…言わないでくれよ…! まだ、君と一緒にしたい事がいっぱいあるのに…。」 「ごめんね…。 桜、せっかくのお花見がこんな事になってごめんね。もう私は一緒には居られないけど、一生懸命生きるのよ…。 先に、逝ってしまう私を許して…。」 その言葉を最後に、母は亡くなった。私は、何が何だか全く分かっていなかった。 けど、大きくなっていくうちに理解した。母は、私の為に病を隠し無理をしてまでお花見に連れていってくれたことを。 それから私は、お花見は残酷な思い出しか残っていない。 そう思っていた。ある日、私が務めている会社の同僚である勇心君から告白された。 「俺、桜の事が好きです。だから、結婚を前提にお付き合いしてくれませんか?」 桜並木の真ん中で、私は言われた。でも、両想いだった事を知り嬉しくもあった。 「あの、不束者ですがよろしくお願いします!」 そして、彼とは3年くらい付き合った後、結婚をした。 今では2人の子供を育てている。この子達もまた、お花見に興味津々のようだ。 あまり乗り気では無い私ではあったが、子供の願いはできる限り叶えてあげたい。そういう思いでお弁当を作っていた。 「ママ〜、早くお弁当食べたいな〜!」 「私も〜!」 元気いっぱいの子供達と一緒に母と座ったあの桜の下でご飯を食べた。もう二度と来ることの無いと思っていた『お花見』を私の大切な人達と来たことで気持ちが変わった。 桜はいずれ散ってしまう。そして、人間もいつかは、命尽きる日が来る。それでも、最後までめいいっぱい生きようとする。 きっと、母もそうだったはずだ。 大切な人を想う気持ち、今ではよく分かる。そして、私もいつかは母の元へと旅立つ日が来るだろう。 桜も全て散ってもなお、新たな花を咲かせるのだ。 そう考えると、桜は私の気持ちを分かちあってくれる友の様な存在に思えてきた。 桜と私、なんだか似ているような気がする。
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