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第1話 親友の妹
「このことは、二人だけの秘密だよ」
それは、突然起こった。
その日僕は、友人の翔の家に遊びに行く約束をしていた。
翔の家に着き呼び鈴を鳴らすと、家から出てきたのは、翔の妹の葵ちゃんだった。
「こんにちは、結人ん」
葵ちゃんがかわいらしい声と天使のような笑顔で出迎えてくれる。
かわいい……。
葵ちゃんは僕や翔よりひとつ年下の高校一年生。
端整な、そして、かわいらしい顔立ち。それでいて少し大人びた雰囲気も持ち合わせている。性格は明るくて人懐っこい。
要はかわいくて美人で性格もいい、とても素敵な女の子だということだ。
ちなみに、葵ちゃんの兄の翔もイケメンだ。さらに翔は、頭もよく、性格もよく、そしてスポーツ万能とまさに非の打ちどころのない人間だ。
二人は美男美女の兄妹として学校でも有名だ。
その翔といつもつるんでいる僕は、イケメンでもなく、成績もよくなく、運動はさっぱりと、翔とは全くの正反対である……。
翔はそんな僕の何がいいのかわからないが、なぜか気が合い、小学生のときからいつも一緒に遊んでいる。
「葵ちゃん、こんにちは。翔はいる?」
翔の家には子どもの頃から何度も行っているので、妹の葵ちゃんとも顔なじみだ。
葵ちゃんはこんなパッとしない僕に対してもいつもやさしく接してくれる本当にいい子だ。
そして、何よりもめちゃくちゃかわいい。
「お兄ちゃんは今買い物に行ってるよ。すぐ来るから家に入って待ってて」
と葵ちゃんは言ってくれたが、
「いや、いいよ。翔に連絡して家に戻る時間になったらまた来るよ」
何回も来ているとはいえ、さすがに本人が来るまで家で待つというのはかえって気を遣って疲れてしまう。少し時間をつぶしてからまた来ればいい。
と思い、そう返事をしたが……、
「いいから遠慮しないで入って。お願い」
葵ちゃんが懇願するような目でこっちを見る。
彼女の顔は真っ赤になっている。
お願い?
そのとき、いきなり葵ちゃんが僕の手を握って、家の中に招き入れた。
葵ちゃんの手はとてもやわらかくすべすべしていた。
普段女性と手を握る機会など全くない僕が、こんなにかわいい葵ちゃんに手を握られたら、当然その魅力に抗うことなどできるはずもなく、そのまま一緒に家の中に入っていった……。
「こっちに来て」
葵ちゃんは僕の手を握ったまま家に上がりある部屋に入った。
ぬいぐるみなどかわいらしいものに囲まれた部屋だった。部屋からは女の子の香り(女の子の香りがどんな香りかなんてよく知らないけど)がした。
ここは葵ちゃんの部屋なんだろうか。
その瞬間だった。
葵ちゃんがいきなり僕に抱き着いてきた。
そして、自分の顔を僕の顔に近づけていき、そのままキスをした……。
頭の中が真っ白になった。
今、一体何が起こった?
「今のことは二人だけの秘密だよ」
葵ちゃんはいたずらっぽく笑いながら、僕をまっすぐに見つめてそう言って、
「絶対に秘密だよ。誰にも言っちゃダメだよ」
今この一瞬に何が起こったのか。
僕はあまりの急な展開に全くついていけず訳が分からなかったが、葵ちゃんの目を見たまま、無意識に「はい……」と返事をした。
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