第4話 作戦終了

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第4話 作戦終了

 休日、葵ちゃんから連絡が来る。 「これから私の家に来て!」 「今から?」 「早く。今すぐ来て。お願い!」  随分切羽詰まっている様子だった。  声も怒っているのか、泣いているのかわからないような感じだった。  何があったのかわからないけど、とにかく行こう。  葵ちゃんは家の前で待っていた。  僕の姿を見つけたと思ったらすぐに僕の手を取って、そのまま家の中に引っ張っていく。 「葵ちゃん、ちょっと!」  僕の言葉など無視して、葵ちゃんはそのまま自分の部屋に入っていく。  どうした、葵ちゃん。何があった? 「お兄ちゃんのバカ! バカ! バカ……」  部屋に入ったとたん、翔の文句のオンパレードだ。  またか……と思ったが、いつもとは様子が違っていた。  理由は知らないが、今まで見たことがないほど興奮しながら怒っていた。 「葵ちゃん、落ち着いて。一体何があったの?」 「あのバカ兄貴! 偉そうに……」  僕の話など全く聞いていない。落ち着く様子もまるでない。  その後も翔への不満が延々と続いた。  ……と思ったら、今度はいきなり涙目になって体を震わせている。 「今日は私の……なのに……」  え? 何て言った? 今日は私の何?  その後しばらくして、ようやく少し落ち着いたのか、一度大きく息を吐いてから、口を開く。 「お兄ちゃん、朝早くから一人で出かけたの」 「はあ」  それの何が問題なのかわからないが……。 「そのくせに、私には、今日は出かけても夕方には帰ってくるんだぞ、なんて言っていたのよ!」 「はあ……」  確かに自分勝手な気もするが、別にそこまで怒ることじゃないような……。 「きっと私のことなんてどうでもいいのよ。だから一人で出かけたのよ。今日が何の日かなんて忘れているのよ」  話がまったく見えてこない。 「よくわからないけど、翔はそんなひどい奴じゃないよ。あいつが葵ちゃんのことをどうでもいいなんて思うはずがないよ」  そう、僕の知っている翔は、妹の約束を忘れたりするような奴じゃない。 「きっと何か事情があるんだよ。大丈夫」  と言った瞬間、葵ちゃんが僕をじっと見つめる。 「結人くんはやさしいね」  そして、僕との距離を詰める。そのまま抱き着いてきて、 「お兄ちゃんとは全然違う。私、結人くんのことが……」  そのまま顔を近づけてきて、目をつむる。  え……まさかこれは、この前と同じ展開⁉  その瞬間だった。  部屋のドアが開かれる。  そこには翔の姿があった! 「葵……結人?」 「翔!」 「お兄ちゃん!」  僕たちは慌てて離れる。二人とも顔は真っ赤だ。 「何勝手に私の部屋に入って来てるのよ。っていうか、帰ってくる前に何で連絡しないのよ」 「あ? 自分の家に帰るのにいちいち連絡なんてする必要があるか」  何てことだ。翔が帰ってくるなんて。しかも、よりにもよってこんなタイミングで。 「お前ら……そういうことだったのか。結人、どうも最近お前の様子がおかしいと思ったら、お前ら二人は……」 「いや、違う。これには訳があって……」  そう、これは秘密の約束なんだよ。だから、僕たちはお前が考えているような関係じゃないんだよ。  なんて言い訳を考えている場合じゃない。 「ごめん、翔。俺が悪い。お前の妹と二人で部屋にいるなんて。変な誤解をさせてしまってごめん。本当に申し訳ない」  とにかく謝るしかない。  葵ちゃんとの約束のせいにしてるけど、そもそも葵ちゃんに「協力して」と言われたととき、毅然とした対応で断らなかった僕が悪い。 「別に謝ることなんてないよ」 「は?」 「お前らが付き合おうが何をしようが、俺には関係ない。二人がそうしたいならすればいい」 「いや、別に付き合っているとかそういうわけじゃないんだよ。だからこれには事情が……」 「事情?」  ダメだ、言えない。葵ちゃんとの約束は言うわけにはいかない。 「うるさい! お兄ちゃんにとやかく言われる筋合いなんてない」  ここで葵ちゃんが口を挟む。葵ちゃんも少し落ち着いてくれ。 「あ?」 「今日だって一人で勝手に出かけたくせに」 「あ? それがどうした? お前、何を言っているんだ?」 「お兄ちゃんは、今日が何の日かわかって……」 「お前、何一人で怒ってんだ。結人とのことは別にいいって言ってるだろ」 「うるさい!」 「もういい。勝手にしろ!」  翔は手に持っていた袋を葵ちゃんに投げつけると、そのまま部屋を出ていった。
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