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第5話 兄妹
まさに修羅場(?)のような雰囲気だった部屋は、一気に静かになった。
「お兄ちゃんのバカ……」
その場に立ち尽くす葵ちゃんの目からは涙がこぼれていた。
そのとき、僕はふとあるものに気づいた。
それは翔が葵ちゃんに投げつけて下に落ちていた袋だった。
その袋を見ると、袋にはリボンのついた箱とメッセージカードのようなものが入っていた。
「葵ちゃん、これ」
袋を葵ちゃんに渡す。
葵ちゃんが袋を開けて、中に入っているメッセージカードを見る。
その瞬間、葵ちゃんの顔色が変わる。
「葵、誕生日おめでとう!」
メッセージカードにはそう書かれていた。
「お兄ちゃん……」
そうか、これが葵ちゃんの言っていた「今日は私の……なのに」か。今日は葵ちゃんの誕生日だったんだ。
葵ちゃんが急いで部屋を出ていき、翔の部屋に行く。僕も慌てて後をついて行く。
「お兄ちゃん!」
「あ?」
「お兄ちゃん、私の誕生日忘れてなかったんだね」
「当たり前だろ」
「じゃあ、何でなの?」
「は?」
「お兄ちゃん、何で最近私に冷たいの?」
「別に冷たくなんてないだろ」
「でも、私を避けようとしてた。前は一緒に学校にも行っていたのに今は違うし」
「いや、さすがに高校生にもなって妹と一緒に学校に行くのはどうかと思ってな。それに、お前は人気があるし目立つだろ。お前と一緒にいると注目されて気になるんだよ」
「いつも女の子に注目されていい気になってるじゃない」
「いい気になんてなってねーよ。それよりお前、一緒に学校に行けなくなったとかそんなこと気にしてたのか?」
「べ、別に気にしてなんかいないわよ」
葵ちゃんがぷいっと横を向く。その顔は耳まで真っ赤だった。
「お兄ちゃん、プレゼントありがとう……」
小さな声でぼそっとそう言うと、葵ちゃんは部屋を出ていった。
何だこれ?
要は葵ちゃんが翔を「嫌い、困らせたい」と言っていたのは、翔が一緒に登校してくれなくなったり、前より構ってくれなくなったからすねていた、とかそんな話?
そんなお兄ちゃん大好き妹に俺は振り回されていたってこと?
はあ……。そんなこと、相手を困らせてやろうとか考えないで、本人に自分言えばいいだけじゃないの。
まあ、よくわからんが、翔と葵ちゃんは仲直りできた。
僕と葵ちゃんの訳の分からない秘密と約束もこれで終わりってわけだ。
「結人、悪いな。変なことに巻き込んで。どうせあいつにいろいろ言われたんだろ?」
「まあ、そんなことかな……」
さすがにあの秘密のことは言えないか。
「それとも……お前ら、本当にいい感じだったのか? ひょっとしてお前も葵のことが……」
翔がニヤニヤしながらこっちを見ている。
「そんなわけないだろ」
「まあ、お前ら二人がそのまま付き合っても、俺は別に構わないぜ」
「バカなことを言うなよ」
その後、久しぶりに翔とゲームをして遊んだ。
夕方には葵ちゃんの誕生日祝いを三人で行った。
お祝いと言っても、翔の買ってきたケーキをみんなで食べて、たわいのない話をしただけったが。
葵ちゃんの機嫌はすっかりよくなったようだ。
よかった。これで今回の騒動は終わりだ。
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