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 異母妹や両親たちに自覚はなかったとはいえ、やろうとしていたことは侯爵家の乗っ取りだ。そのままなら、かなり重い罰を受けるはずだった。婚約者の従兄弟のように。  けれど、彼らは打ち首になることも鉱山奴隷や娼館送りにされることもなかった。代わりに屋敷の広い庭には、私の知らない花が増えていた。そういえば黒狼が、せっかくだから異母妹と両親たちをまとめて庭を彩る花に変えてやろうかと言っていたような気がする。  彼らは害悪をまき散らす傍迷惑な人間だった。もしも本当に花に姿を変えたと言うのなら、少なくとも人間だった頃よりも、確実に世のためひとのためになっている。私の理想のお家は、庭も含めて本当に美しい。  さあ、お茶会を始めよう。テーブルの上には、焼きたてのクッキーと濃い目に入れた紅茶。紅茶にはミルクをたっぷりと注ぐ。綺麗なお家には、優しい婚約者と尊敬する義両親、元気な犬……もとい狼。そしていつか、可愛い子どもたちがここに加わってくれたら嬉しい。  理想のお家に相応しい素敵な家族のためではなく、ただ愛するひとの子どもが欲しい。そんな気持ちに戸惑う私に、周囲はそういうものだと笑う。私には馴染めない不思議な感覚だ。けれど、この理想の家で確かに私は幸せに生きている。
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