安らかに眠れますように。

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コンクリに囲まれた部屋、取調室 気難しそうな大柄の男たちに 動機は?と聞かれた。それはそうだ 殺人したからには動機を聞かれるだろう 私、私はー…… 「私はただ……」 * 新しい家、ダンボールを運び終え、まだなにもない家は真っ白なキャンバスのようで これからどうにでも飾っていける。 カーテンは何色にしようか、壁紙はテレビ側の方だけ、レンガ調のを貼ろうか。観葉植物はどこに置くのがいいんだろう? しかし初日はつかれたのでダンボールの上に弁当を乗せ、食べ始める。 まだ電子レンジもないため、冷めた焼売は肉がぼそぼそとしていた。が、食べれなくはない。 視界にうつるベッドだけがしっかりしている。 今日最悪なにもできなくても 寝ることはできそうだ。 ベッドの組み立ては自信がないので引越し業者のひとにやってもらったので一安心。 それで値段高くなっちゃったけど……。そうだ、この周辺にいいカフェやスーパーがないかとか、見に行こうかな。 引越しにウキウキ状態の私だが、あえてウキウキしているというのもある。引越しに至った理由はとても喜ばしいものじゃなかったからだ。 友達に連絡を入れる。 『まだなんもないけど遊びに来なよ』 『わーい、なんかゲームでももってく』 できれば、友達には夕飯、もっというと風呂入って寝る時間までは居てほしいかな。 Googleマップをみながら歩き回って おしゃれな店の店頭販売のコーヒーを買って。 穏やかな気候、でも、男の人が、すれ違うだけでちょっと背中に汗をかいた。 引っ越す前のこと。 カフェでバイトしていた私は変な客に付きまとわれていた。 「ちょっとぉ〜、なんでさっきの子がきてくれないのお前じゃないんだよ」 いちいちコーヒーだポテトだと小刻みに頼みベルを鳴らしては私が来るのを待って、私がくると必ず話し込もうとするその客が邪魔で男のバイトのほうに行かせたらその客はあきらか不機嫌になった。 ぶよぶよの腹、いつから着ているのか不快なほどに汚れたスーツ。 「君じゃないと駄目だってさ」 はっきり迷惑ですと護ってくれる上司もいなかった。 私はバイトに行くたびに憂鬱になり、半年でバイトは辞めた。 「ミカちゃん久しぶり〜 最近バイト入ってないみたいだけど、もしかして辞めちゃったの?でもお小遣い厳しいでしょ?あの店の狭さだとそんなに大変じゃないだろうし、その程度で辞めてたらあとが大変だよ? そりゃミカちゃんは可愛いからどうにかなるかもしれないけどさ、やっぱり心配なんだよね 心配だから言ってるんだよ お金困ってるんじゃないの?」 バイトは辞めたのだが、バイトと私の家の間のコンビニで偶然会った、それが悲劇のはじまりだった。 おじさんは駐車場で私を引き止め、いつまでも話し始める。 「いや、わかるよ おじさんも昔はよくすぐバイト辞めてたよ 飲食店はやったことないんだけどね、日雇いとかなんか運んだりとかね、してたよ でもそうたいして頭も良くない上司が偉そうでさ そういうのに耐えて耐えて 新卒も営業だーなんだ色々やらされてさあ そうしてるうちに母さん入院するわでホントもう大変! そこからどうしたかって もうひたすら努力だよ資格の勉強したり寝る間も惜しんで働いたり よくシャワーあびたらとか言われるけど こっちはあびられないほど忙しいんだよね 夕飯たべながら勉強!疲れ果ててスーツのまま就寝! よくあるよくある。 美容とか暇な人は気を使えるだろうけどさ そうやって頑張ってね 俺も出世して、今はなんと、なんと部長になっちゃいました〜 やっぱ努力て人が見ててくれるものなんだね」 少し話すだけでよく短い間にそれだけの不快要素を詰め込めるなと思う 部長になったのも年齢的に自動的にそうなっただけだろう。 私はバイトしてたときと同じように笑みを浮かべ数度うなずき、遠回りして帰った。 ついてきている気がしたが、気 だけなので警察には言えなかった。 けれど実際は何度もついこられて、遠回りしてても場所を特定されてしまったんだろう。 おじさんと偶然会う距離は、どんどん家に近くなっていった。 そして 「5階に住んでるんだね いいよね、虫とかも入ってき辛いでしょ おじさんもね、いまのアパート5階 いや、このアパートじゃないけどさ 俺もここにしとけばよかったなあー、あ、いやでも俺には狭いかあ おじさんとこ近いし、こっちおすすめだよ」 私は警察に相談した。 家がバレたその日からおじさんは必ず外に出かける私を待ち伏せして話し込み、バレンタインとかにはポストにチョコを入れてきたり 完全に交際している気分のストーカーだった。 しかし警察は周辺パトロールを強化しますね、とか防犯ブザーを貸してくれるという程度で、まあ、たしかにおじさんはいますぐ逮捕されるほどの なにか、をしているわけではないのだ。 そんなはっきりとした対策はとってくれなかった。 私は普通にエレベーターでおりるのが怖くて非常階段から外に出ようとして、ニコッと笑いながら非常階段の踊り場にいるおじさんを見た時、腰が抜けた。 大丈夫?と支えてくるおじさんに微塵も悪気はなく、私は張り裂けそうな胸に、息の仕方をわすれ蹲る。 誰のせいだとおもってる 居なくなれ、居なくなれ、居なくなれ、居なくなれ。 けれどストーカーは居た いつまでも、どこにいっても、なにをしてても。 「あ、新作のお酒買ってきてくれたんだ」 深く考え事をしていると、友達がやってきた。 ゲームとお酒を片手に。 「そー、ラムネピーチメロンコーヒー味」 「美味しいのかな……」 「美味しいものしか入ってないから美味しいんじゃない?乾杯〜」 友人の苺香は優しい。 くるくるの茶髪パーマ、どぎつい化粧 化粧おぼえたほうが変な男にナメられずに済むかなと化粧のやり方を教えてもらったこともある。 でもまあ、効果は人によるらしい。 なんなら金髪にしても人から道を尋ねられたり音楽を聞いていてもくだらない用事でつきまとわれたりする。 自分がそういう体質なのかもしれない。 かといって、それは私が悪いことにはならないけど。 「家具揃ったら見せてよ」 「どういうのがいいかなー」 「凝ったのにしたいだろうけど、あんまり悩んでるといつまでも家具揃えられないから 私なんて半年たってもまだソファも椅子もなくて床に座ったりしてさあ 不便だったよ だから最初は適当に買い揃えてさ、貯金してオーブンはいいものにしたりー、とかどんどんこだわり入れてってみれば?」 「あーそれがいいかも」 苺香と私は中学の頃から仲がよく、バイトも最初は2人でやっていたが、ストーカーのおじさんに絡まれる前に苺香は学校の勉強についてけないという事情でカフェを辞めていた。 私がついてればミカは無事だったかも と暗い顔をする苺香に、そんなことないと何度言ったか。 2人でゲーム内で家具を置いていき これなんていいんじゃないとわいわい言いながら、外は暗くなっていった。 「そろそろ帰ろうかなあ」   「危ないから送ってくよ?」 「ばーか、女の子二人いても危ないものは危ないよ というかまだ21時だし。それじゃ、ばいばーい はやく寝るんだよ」 「うん」 パタン、としまる扉に、私はチェーンをかける。 そして窓という窓がしまってることを確認して、布団に入った。 チッチ、と時計の音。 もともとついていたレースのカーテンが うっすらあいてるのが気になり 私はそれをしめに立ち上がる。 ガタタっ 「!!!」 バン!と 人の顔が窓にはりついてる気がして 私は壊れるほどにカーテンを引っ張った。 良く見たら大きい葉っぱが風で飛ばされてきただけだ。 風の音が強い。 今日はずっと、気になってしまうかもしれない。 『ミカちゃーん、来たよ〜』 『ミカちゃんずっと暗い顔してる、もしかして病気だったりする?お金受け取りなよ 病院もいけないの?』 『はい!ミカちゃんにプレゼント!これずっと見てたよね店の前で』   そのブランド、たった今嫌いになったよ。
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