安らかに眠れますように。

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風の音がいやで枕をかぶるように寝たら いつのまにか寝ていたらしい。しかし1時間しか寝れていないような疲労感があった。 今日は大学は休み、だ。 普通に生活できるように家の中を準備しなければ とりあえず厚手のカーテンを買おう、あと、防犯グッズとか……。 「……あ、大家さんこんにちは」 「はい、こんにちは〜最近引っ越してくる人多いからいまはこのアパートずっと入口あいてて 人と荷物が行き来して邪魔だろうけど、気にしないでね〜」 「あ、はい」   私もその邪魔なことをしたので悪くは言うまい でも防犯が気になった。 あの男がいたら、普通にはいってこれて、私の部屋の前で待ち伏せできる……。 この部屋の鍵も、なんだか頼りない。 そうー、鍵、鍵だって、合鍵を作られた。 私が起きた瞬間、家の中に入ってきてて 私は叫びながら、なんとか枕だのバッグだの近くにあったものをなげて、外に出て、そこから警察にいき、苺香にも手伝ってもらって 引っ越しまですぐに準備して、今に至る。 もし次この合鍵を作られたらー…… ぞっとして何度も調べる どうやらこの鍵はそういったものが作りづらいらしい、一応防犯最優先に引っ越し先を探してよかった。でもいくら、いくら準備しても足りないものは足りない。 私は鍵を補強するものを2つも買って 玄関のまもりをガチガチに固めた。 他の人からみたら変な人に見えるだろうが、それでもやめられなかった。 結局おじさんは、そうたいした罪にとわれず ふつーにいまでも会社にいってるそうだ 悪気はなかった たまたま部屋があいてて不用心だから気になった 友達だと思ってた ただ、ただそれだけ。 実際襲われたりまではしなかったから と 罪としては、とても軽い 軽く注意を受ける程度、けれど私は厚手のカーテンを買った今夜も2時間しか寝れなかった。 「やっほ、顔色悪いね。やっぱ心の傷は簡単には癒えないか 今日は泊まるよ私 ゆっくり寝な」 「うう……苺香ありがとう」 苺香だけが癒やしだ。 頭をゆっくり撫でられて疲れ切った私は目を閉じる。 「許せないよ、ミカをこんなに傷つけてそれでも普通に生活していくあの男が」 苺香、ありがとう ありがとう……でももう、いい 怒らなくていい。全部終わったんだ。 『ミカちゃん手白いんだね』 『セクハラじゃないよ〜、今の子ってすぐそれ言うよね イケメンだったら嬉しいんだろ?差別だと思うんだけどなあ』 『おじぁ゙さんは』 『ほんとキミは可ァii.きごう譛ャ蠖薙°繧上>縺?』 いる? ベッドの下に ベランダに 壁に穴あいてるかも いつのまにか目がそこにあって 部屋にいつのまにか いる、いる、絶対いる、どこかにいる、だってあれだけしつこかった 引っ越ししたくらいで諦めない、ずっと刑務所にいるなら大丈夫だけど、もう普通に社会にいるんだから、いつだってすぐ隣に 私の近くの人も危ないかも 苺香の髪を引っ張ってる? 次は苺香を狙うの? やめて!やめて!!! 「!!!!」 「きゃあ?!!びっくりしたミカ 突然起きるんだから……。朝ご飯できたよ」 苺香がほんわりと微笑んでこちらを見ている。 いちごのジャムがぬられたパン。 「トースターないからフライパンで焼いた〜」 「苺香ていちご好きだよね」 「まあ名前にいちご入ってるくらいだからね いただきまーす」 きっとこの傷は時間とともに癒える。 癒えていく。 だってこんなに、優しく支えてくれる苺香がいるから。 そうしてー……。 数ヶ月がたち、普通に生活できるようになったある日のこと 苺香がぐったりと、私の部屋にやってきて 寝させてーと言ってきた。 「どうしたの?」 「んー、なんでもない」  理由を言おうとして、もごもごして苺香はやめた。 まあ深く追求はしないでおこう。 コーヒーの粉末をいれて、お湯をそそぐ すでに寝ていた苺香の頬を撫でる。 すると、苺香のスマホが明るく光り、きているメッセージが見えた。 見えてしまった。 田中ゆうご 私をストーカーしてた男だ。 『苺香ちゃん返事してー』 『わかったよ、昔のことは反省してます ちょっとしつこかったかなって でもちょっと敏感に反応しすぎ?友達想いな苺香ちゃんはいいとおもうけど 友達より彼氏つくりな?』 『今日あえる? 〇〇コンビニの前に居ます(汗)』 私の話をしているー……? メッセージをたどってみて悟った。 どうやら、バイト先でたまたまおじさんが来ていたので 私への被害を怒って苺香は、関わってしまったらしい。 そしておじさんは苺香を次のターゲットにした。 私は思った。 終わらない、終わらないんだ。 引っ越ししたって、私は夜中に突然起きて叫びたくなる いつまでも居るような気がしている たとえ沖縄にいっても北海道にいっても海外にいっても私は男が部屋に入ってくるように感じるだろう これは距離の問題ではない そして、終わってないからこそ 次もそういう思いをする子があらわれていく 何人も苦しんで、苦しんで でも結果的にだれも死ななかったから、たいした辛さじゃなかったね、て世間に流されて 加害者のほうはちょっと気になって、つきまとっただけ、ごめんなさいって。 それで終わりで 私の、私達の、眠れない夜は。 私は苺香を一人家に残し、トートバッグに刃物を入れた。 「んん……ミカ……?ミカ……いかないで……」 消え入るような寝言を、無視して 私はただただ、許せなかった。 この怒りすらも時間経過で癒えるのかもしれないが 癒やす気はなかった。 『ミカちゃーん』 『ミカちゃーん無視?』 『おじさん悲しいな』 『ミiみ”…ミカ…ミ゙……苺…香ちゃん』 『苺香ちゃーん』 『苺香ちゃんも俺のこと好きでしょ?』 「うらぁああああ!!!!」 あたりが騒がしい、倒れた男に、流れる血に 私は何度も刺した。 本当はもうすこし刺したかったがすぐにコンビニの店長に取り押さえられ……しかし最初に喉ねらったのがよかった 大量の血に溺れ、男は絶命していた。 * 警察に生い立ちや現在の仕事を聞かれた後 犯行動機を聞かれた。 そりゃ、まあ確認されるだろうな 黙っててもいいのだが 私ははじめて、自分の痛みを世界に訴えられるような気がしていた。 「私はただ……」 「私達はただ、安らかに眠りたかっただけ」 なんの不安もなく、男の影におびえず 襲われもせず、その日、友達と談笑して、コーヒーを楽しんで、そしてゆっくり寝たかった。 ただ、それだけの望みを この世界は叶えてくれなかったんだ。 「……ごめんね苺香」    外にいるだろう苺香にそう呼びかけると 泣きそうな声で 馬鹿と、ー……そう、言われたような気がした。 二度と戻らない平穏な日々を、それでも苺香ー…… あなただけは。 end
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