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「おはよう」
でもこの人は何も言わずに、いつものように出ていった。片付いた部屋に私は一人残って彼を待った。しかし彼は帰らなかった。
「明日は帰ってくるかしら」
次の日も帰らなかった。次の日も次の日も。待っても待っても彼は帰らなかった。綺麗に片付けた部屋は何もない。あるのは据え置きのキッチンやエアコンなど昔から見覚えのあるものばかり。他には何もない。
「やっぱりもう帰って来ないのね」
──私は地縛霊。あなたは超鈍感な人。この場所に何かがあって私はこの場に留まって動けない。あれ? なんで私ここにいるんだっけ? 忘れてしまった。ここに住む人はみんな超がつくほど鈍感な人。私を分かる人は住もうとさえしないし、先ず寄り付かない。
また一人、私に小説の続きも、マンガの続きも、ドラマの続きも、贔屓の野球チームが優勝したかどうか、ゲームのラスボスの強さも、あの人がマザコンかどうか……。あぁぁ……もうっっ、すべて中途半端……中途半端なのよ! 気になるじゃない。あっ、一つだけ分かるわ。綺麗に部屋を片付けた結末だけよ。分かるのは。それって引っ越しっていうのよね。毎回毎回その結末だけは誰も変わらない。
私は地縛霊。私の力じゃここを離れられないのよね。強い恨みがあったはずなのに……でも理由忘れちゃた。すごい恨みがあったはず。でも最近違う恨みが募っていくのよね……またひとつ……またひとつって……知りたい恨みっていうのかな。みんな気になる続きを残して出て行っちゃうから。恨みが募り過ぎちゃって。昔のことなんかどうでも良くなっちゃうくらいイライラするじゃない!──
「誰か!!! 続き教えてよ!!!」
「ねぇ、ここのアパートの201号室。住人が引っ越したばかりなのに……それから夜な夜な女性の声が聞こえるんだって……空き部屋なのに……」
「怖いよね……」
〈了〉
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