第4話 ウィンクルム契約

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第4話 ウィンクルム契約

「こちらです」  使用人がドアをノックした。 「入ってかまわん」 「失礼します。お初にスミレ町の領主さま。勇者ブレイドです。そして後ろに名が同じパーティーのロクサーヌとドミンクです」  二人がお辞儀をした。 「モデストさま、職業:勇者がぜひお会いしたいとのことでして勝手ながら通させてもらいました。不服でしたらすみません」   「おお、むしろ良くやった。魔族には見られてないだろうな」 「はい、問題ありません」  痩せている使用人はお辞儀をして後ろに下がった。 「ならよろしい。ブレイドさん、私がスミレ町の領主モデストです。みなさんようこそお越しくださいました。こちらにお座りください」  モデストの案内にブレイド率いる勇者パーティーは大人しくソファに座った。 「では、ご用件を伺いましょう」 「他でもない。現在スミレ町は悪い魔族に支配されている。そこから人間たちを救うのが勇者に役割だ」 「おお、まさに救世主だ…!」  モデストは両手を広げて喜んだ。 「それで、魔族の情報を教えて欲しいのです。我々としても誰かが犠牲になるのは避けたい」 「それは……言えない」 「なぜです?」  ブレイドは問い詰める。同時に分析眼(アーゼ)を起動した。これは、対象の相手の持っている武器や服装、アクセサリー、状態異常などを探知できる。  ブレイドの視界が青白くなる。  うろたえるモデストの手首。そこに魔法陣が青白く表示されていた。  これは……。  ウィンクルム契約だ。  ライダーの情報は正しかった。 「モデストさん。失礼します」  ブレイドはモデストの魔法陣が刻まれたほうの腕を掴んだ。 「契約・解」  ブレイドとモデストの二人を包み込むように光が現れた。 「…!」  モデストの腕の魔法陣にビビ入る。  パリッと音がして、魔法陣は消滅した。 「あっ、あっ、しゃべれる」  モデストは喜んだ。 「おめでとうございます」 「スミレ山だ。そこに2から300の魔物が住み着いている。リーダーはニコールというものだ。低級魔族。君たちなら普通に勝てる。頼んだぞ」 「その任務。承りました」  ブレイドは立ち上がる。ロクサーヌとドミンクにも目配せをする。二人とも頷いた。  開戦の合図だった。  一方のスミレ山。リーダーのニコールは跪ひざまずいていた。周りにはスミレ山に住む低級魔族たちが取り囲んで様子を見ている。  上級魔族が視察に来ていたのだ。 「さっさとスミレ町を襲わないのはなぜ?」  上級魔族は玉座に座りニコールを見下している。その椅子はスミレ山で一番偉いニコールが座る席だった。地面におでこをついたニコールは歯軋りしていた。 「ヨザクラ王国が干渉してくるのがやっかいで」  ニコールは反論した。 「魔王軍歩兵部隊に所属しながら、なんて惨めなのかしら。ならばワタクシが変わりにヨザクラ王国を片付けるわ。あんたは知ってると思うけど、“将軍”が来る前に町の一つや二つも落としてないと知られると私たち死刑よ」 「す、すみません。すぐに片付けます」 「その言葉、約束だからね」  そういうと、上級魔族は玉座からパッと飛んでニコールの背後に移動した。 「今回は見逃してあげるけど、ニコールもあまり私を怒らせないことね。この将軍目下の大隊長 音感のアウリスをね」  その威厳とアウリスから漏れ出す高魔力。それがニコールや他の低級魔族を寄せ付けない。アウリスが歩くところは魔族が割れて道を通した。  静まり返るスミレ山。ニコールは立ち上がると服や体についた土埃を払った。なにも汚れがないのを確認する。 「アウリスの気配がもうない。移動も速いな。スミレ町はもうおしまいにしよう。今日の夜に襲撃をかけるよ。みんな準備して」 「おおー!」  低級魔族たちはこぶしを突き上げた。 「えらく道が入り組んでるな」  ブレイドが地図を見て言った。スミレ町からスミレ山までは一本道でまっすぐに見える。だがライダーから貰った地図の移動ルートはグネグネと湾曲していた。 「ライダーは何か言ってなかった?」  ロクサーヌがブレイドにたずねた。あまりにも道が地図と現実で違いすぎるのだ。 「なにも。まぁ想像はできる。魔族が通ったルートがグネグネだった。つまりまっすぐ行くと罠にハマるということだ」 「なるほど、彼ならそうするわね」  ロクサーヌは納得して頷いた。  それからブレイド率いる勇者パーティーは、ライダーの地図の通りに道を進んだ。  おかげで時間はかかったが罠に引っかからずにスミレ山ふもとまで辿り着けた。 「気配からしてザッと2から300匹か。さっさと潰そうよ」  ロクサーヌが気配を読んだ。 「二人は雑魚を片付けてくれ。俺はこの山のリーダー格を倒そう」  ブレイドが言って駆け出した。 「ようやく暴れらるな。武装化(アームソード)」  ドミンクの手に槍と盾が発現した。
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