第5話 悪に手加減無用!

1/2
前へ
/34ページ
次へ

第5話 悪に手加減無用!

 山の中は洞窟になっており、ブレイドたちはその中に入った。 「なっなんだ! お前たち止まれ!」  最初に目に入ったのは黄色いツノが生えており、背中には大刀を背負っている低級魔族2匹。  近くに酒の瓶が置かれており、様子から見て酔っ払っていた。 「悪に手加減は無用」  ブレイドが言った。  勝負は一瞬だった。  気づいた時には魔族たちの身体は真っ二つだった。 「行くぞ」  ブレイドたちは山の中を走って上がっていく。途中で出会った魔族たちはブレイドの一太刀に切り伏せられた。 「頂上にたくさんの気配がする。集合して待ち構えてるかも」  ロクサーヌが探索(サーチ)を使って魔族の配置を掴んだ。 「了解だ。乱戦になるぞ。覚悟はいいか?」 「はーい」 「もちろん。全員倒すだけだ」  ロクサーヌとドミンクが返事を返した。 「クソッ…さっきまでアウリスがいたのにタイミング悪ッ!」  ニコールは悪態をついた。突如強い相手が襲ってきたことに冷や汗をかいていた。   「スミレ町に逆らえる民はいないはず。モデストがチクッたのか? 契約を破棄された?」  考えるよりも先に答えは目の前に現れた。   職業:勇者のブレイド。その男は魔族たちが目を細めるほど光り輝いていた。 「勇者だと…一千万人に一人の才能が、こんな田舎までやってくるか」 「俺に与えられた使命は魔王を倒すこと。そして配下の魔王軍。貴様らの殲滅だ」  ブレイドは剣を構えて、ニコールに近づく。それを魔族10匹程度が壁のようにさえぎってくる。  ブレイドは少し膝を曲げた。故郷の騎士団で習った剣技の構え。踏み込んだ。 「光神斬(ラヴィート)」  ブレイドの剣が輝く。  水平に切る。一瞬で10匹の魔族たちはバタバタと倒れていく。  一瞬の沈黙。 「……おのれ勇者!」  我に帰った魔族たちは一斉に武器を振りブレイドに襲いかかってきた。  ドミンクが盾でそれを受け、槍で突き返す。 「突風(ウィンダスト)」  ロクサーヌが魔法陣を出現させる。  そこから吹き荒れる風によって50名ほどの魔族が吹き飛んだ。  そこにドミンクの槍が高速の突きを繰り返す。たくさんの敵がいると言うことをまるで感じさせないその動きに、魔族たちは冷や汗をかいた。 「お前の相手は俺だ」  加勢しようとしたニコールにブレイドが立ち塞がった。 「自信満々な顔しているけど、もう勝った気かしら。人数なら私たちが圧倒的に多い。くらえ、闇に染まれ。黒砲(ダークバースト)」  魔法陣から出現した黒き光線。それがブレイドを包み込む。  だがブレイドは避けるまでもなく、剣で薙ぎ払った。 「ウソでしょ…⁉︎」 「紛れもなく現実だ。魔法詠唱してもその程度か。本物を教えてやる。鎮まれ、地に染まり、天に降伏せよ。光神斬(ラヴィート)」  キーーーン!  光と音がこの戦場の全て包み込んだ。  何も見えなくなった視界の中、おくれて衝撃波が走る。  スミレ山自体が震えるように揺れる。  ニコールは走馬灯を見ていた。  隣に座っているのは魔王だ。自分はようやく“将軍”になれたのだ。長年の夢が叶った。これからは側近として魔王さまのお側に入れる。決して離れない。ずっといっしょだ…。  ブレイドの魔術の光りが消え、ニコールが死んだのが誰の目に明らかとなった。 「ウソだろ…!」 「逃げろー」 「どこに?」 「今ならヨザクラ王国だ…! かくまってくれるぞ!」  魔族たちは戦意喪失したようだ。武器を置いてみんな逃げ始めた。  だが、ロクサーヌとドミンクがそこに立ち塞がる。 「なっなんだよ。俺たちはもう戦う気はないぞ」  先頭にいた魔族がみんなの気持ちを代弁した。 「ダメだよねぇ。ドミンク?」 「もちろんだロクサーヌ。魔族は悪の化身。誰一人として生きてここから出させん」  ドミンクの剣技とロクサーヌの魔術が炸裂した。 「こんなにスミレ町からかすめとってた訳ね。全員殺して正解だったね」  ロクサーヌが金塊を抱えながら言った。目の前には山積みにされた金塊やゴールド、食料の山ができていた。 「まぁまぁ…過激なのも致し方がない。それより、早く魔族を倒したことをモデストに報告しよう。討伐の証に金塊を持って行ったら信頼を得れるはずだ」 「さすがわブレイドね」  ロクサーヌはブレイドの決断の早さにうっとりした。  モデストは魔族討伐の知らせを聞いて町民中に知らせた。最初はみんな半信半疑だったが、ロクサーヌが手に持っている金塊を見て笑顔になった。 「ブレイドさま、ロクサーヌさま、ドミンクさま。この度はありがとうございました。これはほんのお礼です」  ドミンクはそう言ってさっきロクサーヌが手渡した金塊を渡そうとしてきた。 「なっ…これはスミレ町のものです。受け取れませんよ」  ブレイドは拒否の姿勢をみせた。 「何をおっしゃいますか。スミレ山の魔族がいなくなったと言うことは、あそこに差し出した金塊やゴールド、食べ物が全て戻ってくることを意味している。こんなにめでたい日はない。ぜひ受け取ってください」 「そうか、すまない」  ブレイドはうやうやしく金塊を手に取った。 「ありがとう勇者さま!」  ポニーが側に来て言った。 「困ったことがあったらすぐに俺たちに言うんだぞ。勇者こそ正義だ」  ブレイドはそう言って旅立った。背後にはブレイドやポニーを含むたくさんの人たちが見送ってくれた。  彼らスミレ町の住人は、この勇者パーティーに四人目の仲間。職業:スパイが居ることなど知るよしもなかった。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加