第6話 ヨザクラ王国での交流

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第6話 ヨザクラ王国での交流

 桜が一年中枯れない国があると言う話を聞いたことがあった。数十メートルはあるであろう国を取り囲む城壁。その頂上は花壇になっていて、植えられているのは桜の木だった。  雑貨商人に変装したライダーは城門をくぐった。  まるで国全体が一つの装飾品。天気が良いのも相まって、満開に咲いた桜がよく見える。  風が吹くたびにあちこちに咲いている桜の木が揺れる。舞い散った花びらが国の屋台や家の周りをくるくると純回する姿が美しい。  出迎えたのはずらりと並んだ屋台。客引きをしている看板娘。サクラ団子と書かれた看板が、この国の名物であることをアピールしていた。  まっすぐに進んだ路地の先に見えるのが、ひときわ高い丘の上に作られたヨザクラ城だ。帝国の一つ下の王国レベルともなれば、その立ち姿は立派な者だった。  ライダーの目的はブレイドたち勇者パーティーの連絡を受けて一応あの城に侵入することだった。  スミレ山の魔族がヨザクラ王国に逃げ込むことを言っていたらしい。ヨザクラ王国の様子を見て、魔族がいるか確かめてきて欲しいとブレイドからの頼みだった。 「あのー」  ライダーは後ろから話しかけられた。 「その腰に差してある筆を一本くれませんか?」  ここの住人だろう。珍しい着物を着ていて白髪のおじさんだった。 「これですか。120ゴールドです」 「ほれ、ちょうどあるわい」  白髪のおじさんはそう言ってゴールドを差し出した。ライダーは背負っていた子供がすっぽり入るほどの雑貨入りのカゴを地面に置いた。ゴールドを受け取り、代わりに筆を差し出す。 「お会計ありがとございました」 「ほっほっほ。これは別の国でしか手に入らないレアものだ。嬉しいな」  白髪のおじさんは筆を大事そうにしながら持って帰った。まさか正体が職業:スパイだなんて思ってもいないだろう。個人で稼いで歩く雑貨商人はスパイにとって便利な変装先だった。カゴにつまった生活用品や保存度が高い食品はどこでも需要がある。買いに来たその土地の住人と触れ合い、なんなら情報を引き出すこともできる。  個人商店の雑貨屋は国から国へと移動してもは別に違和感がない。それはスパイにとっても大事なことだった。目利きのいい人ならわずかな匂いや、肌についた土の色だけでこの国のものでないと見破ってくる。  繁盛している路地を曲がって、しばらく歩くと広場に出た。目の前で薪を両手で抱えながら歩いている少年が目に映った。向かう先には空っぽのわずか数センチの排水溝。地方から雑貨商人の立場を考えてしまい、反応が遅れた。  少年は排水口溝に足を引っ掛けた。ライダーの目の前で少年がバランスを崩してこける。持っていた薪が手から離れてバラバラに転がった。  ライダーは雑貨の入ったカゴをおろした。 「おーい、大丈夫かぁ?」  そう言いながらあたりに散らばった薪を拾い集めた。 「うう…ん。なんともないよ」 「おっ、強いねぇ君」  そう言って少年の前に集めた薪を積み上げておいた。 「ありがとうおじさん。俺はヨザクラ王国でいずれ騎士団に入るんだ。だから、こんなことじゃ泣いていられないわけ」  少年は誇らしげだ。 「うん。いい子だ。そんな君にコレあげる」  雑貨商人のライダーはそう言ってカゴの中から箱を取り出した。中を開くとレインボーのキャンディーが入っていた。 「おじさんからのプレゼントだよ」 「えっいいの? やったー!」  少年は喜んでキャンディーを受け取った。  雑貨屋のライダーはしゃがんで同じ目線になった。 「この薪の量は君じゃ危ないね。おじさんが代わりに運ぶよ。場所行ってごらん?」 「えっとー、あっち」  広場のど真ん中にある巨大な神輿を指した。どうやら薪と思っていたものは、神輿で使う木材だったようだ。  移動して始めた気づいた。広場をぐるりと囲むように人々が何かを立てようとしているようだ。骨組みだけできているものもあった。 「時に少年。広場でイベントでも起こるのかな?」  雑貨商人のライダーは尋ねた。 「一年に一回だけのビッグイベント、ヨザクラ王国の桜祭りだよ!」  少年の目は輝いていた。  桜祭りは国をあげて取り組んでいる行事のようだ。薪を運び終え、少年と別れた雑貨商人のライダーは再びヨザクラ王国の路地を歩く。見上げると青い空に鳥の群れ。これから起こる祭りを喜ぶように鳴きながら飛んでいく。向かう先はヨザクラ城。雑貨商人のライダーと同じだった。 「さてと、ここからが本番だな」  雑貨商人のライダーはひとりそう呟いた。
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