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あの子はいつも、花咲く季節にやってくる。
そうして、ほかに誰も見ない、虚空を見つめて立ち尽くす。
私には、あの子がそこで何をしているか見えている。
毎年毎年懲りないなぁ、と、私はため息をついている。
――わたしの寿命、縮めてください。
あの子はいつも、心の中で同じセリフを繰り返す。
その度彼は、アイツが根を張っていた場所を大鎌の先端でほじくりながら、
――死神だからって、寿命を縮めたりはできないんです。
怯えた声で、呟いていた。
アイツが朽ちたのはいつのことだっただろう。
アイツがまだ花を咲かせられた頃は、多くの人がアイツを見上げて微笑んだ。時に缶やらゴミ置き場と化したこともあった。そんな時、アイツは「私が片付けたいけれど、動けないからどうしようもないね」と苦く笑ったものだ。
アイツが朽ちていく時、側には死神がいた。
死神は大鎌の先端でアイツの体をつつき回していた。
アイツは動けないから、抵抗することもできなかった。
強いていうなら、強い風が吹いた時、葉を落としてやる。ダメージなんて少しもないけれど、それは私たちにできるわずかな抵抗の方法だった。
最後の一枚を死神の頭に落とし、アイツは朽ちた。
朽ちた後、アイツがいた場所には誰も寄り付かなくなった。
そこはしばらく土があるだけの寂しい場所だった。
ある時、シロツメクサが土を覆い始めた。
それから、幸福を探すものが幾人か、アイツの場所で葉に触れながら笑っていた。
けれど、私たちの花が咲く頃。
人々は私たちに夢中になる。
だから、アイツの場所は、そこだけ異空間を切り貼りしたかのように、しんと静まる。
時折、シートを敷いて飲み食いする人がいた。
その後、アイツの場所は、誰に片付けられるでもない缶やゴミが転がった。
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