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240430火曜、エッセイ「ハグ記念日」の巻
前回のエピソードの続きになります。
母は小生の生活している重度障害者施設に、
月に一度1ヶ月分のお菓子や飲み物を届けてくれています。
先週の金曜はファミマのどん兵衛おにぎりや焼きそばUFOおにぎりを、
買ってきてもらいました。
母が施設に到着する10分ほど前に思いました。
来年になるか何年後になるかわからない、
母の家の桜のしたでの母とハグする機会を待っていたら、
それまでに万一母に何かあった場合、
ハグし損なうという可能性もあります。
じゃあ、このあと母が来てガラス戸を開けた際に、
〈ハグしようといえるだろうか〉
言いにくいなぁ……。
しかし、「思い立ったが吉日」といいます。
小生は今日を逃すまじ、と決心しました。
途端に気持ちがそわそわしてきましたが、
小生は覚悟を決めました。
部屋の外のベランダを足音が近づいてきました。
そして、ガラス戸が開きました。
「溶けてきてるから早く食べなさい」
そう言って母が、
アイスクリームのチョコモナカジャンボを小生に渡しました。
「じゃあ、行くね」と母が外へ出ようとします。
「お母さん!ハグしよう!」口を衝いてでました。
母は思いがけず「どうしたんや?」と言いました。
〈そんなんせんでええ、と母は言うのだろうか。〉
母はすぐに言いました。
「いいよ、ハグしよ」
小生は幼いころ、
母に「おんぶ」「抱っこ」を何度もしてもらいました。
でも、いわゆるハグというものをしたことは、
これまで一度も無かったのではないだろうか。
40年前には「ハグ」という言葉も日本語には無かった気がします。
「抱っこ」の変化形なのだろうか。
「よしよし」と母は言って、
小生の背中へと手をのばしてきます。
「生まれたときはあんなにちっちゃかったのに大きくなったなあ……」
と、母はいつになく優しい声になっています。
小生が母の背中へと腕を丸めます。
母の身体はぬくかった。
母の体温が冷たくなくてよかった。
小生はさらりと済ませるつもりだったというのに、
とめどもなく勝手に涙が溢れだしました。
小生はハグを力強く行うことは出来ませんでした。
〈母の身体を枯れ枝が折れるみたいに傷めてはならない〉
というより、
まだ、ひとかけらの気恥ずかしさが残っていたのかもしれません。
「お母さんはあんたより先に死ぬやろう。
何も遺してやれるものがない。
でもな、おまえが小さいときにいろんなところへ連れて行ってやった。
想い出をたくさんつくってやろうと思ってな」
母は続けて言いました。
「おまえは自分がすごく不幸と思ってるかもしれん。
でもこの世の中で働かなくてすんで、
こういう施設で生活出来てるのはありがたいことやでぇ。
いま施設もいっぱいいっぱいで、
入りたくても入れない障がい者が多いらしいんよ」
自分自身にバカ正直な小生は頷きませんでした。
というのは、小生は自分を不幸とは思っていません。
歩行はもとより胸より下を動かすことが出来ず、
動けなくなってからの14年でバットのように細くなった脚を見るたび心配になり、
施設のはるかに歳下の職員から見下したようなタメ口をきかれ、
生活に不快とか不便だなと感じることは多々あります。
でも、自分の人生を不幸だなと宣言したら、
その時点で自分に敗けなのだと思います。
小生は今生の栄光の王冠をあきらめはしないーー。
それにしても涙が止まらず嗚咽する小生……。
〈ここまでなるはずじゃなかったのに……〉
母がマスクの内側で鼻をすする音がします。
母の窪んだ目から涙が流れているのかは、
よくわかりませんでした。
母が帰ったあとーー。
鏡を覗くと小生の目ん玉は真っ赤に充血してましたが、
心の奥の深いところで積もるように溜まっていた膿を、
荒波が押し流したかのように、
台風の過ぎ去った翌朝の青天のように、
心は軽く爽快になっていました。
約40年間ほど母の身体に触れてませんでしたが、
初めてのハグとなりました。
続く。果てしなく続く……。
玉置浩二「コール」
Spotifyで聴く https://open.spotify.com/track/6VdF8SqmcVRYrfO2Vcg3JN?si=LwjuO7nmRTOIcj3qv4dKcw&context=spotify%3Aplaylist%3A37i9dQZF1DZ06evO3oc2wI
YouTubeで観る https://youtu.be/svUSQHE7Wy0?si=gswNjDSakxFNyEP7
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