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都の鬼
そうは言ってもちょっと興味はあった。元来、鬼となる人間は異常者だ。ひとの知恵などとっくにない。それが二匹一緒にいる、なんてありえないんだ。二匹いたらすぐに共喰いをはじめる。それが鬼さ。
「だんなさまっ」
どこからともなく声がした。ああいつものやつかと、俺はため息をついた。
「なんだテンコ。きょうは餌はないぞ」
テンコは庭に植わった松の木の下で、あたりをうかがっていた。家人にはあまりその姿を見られたくないのだ。なんせテンコはキツネだからな。それも言葉をしゃべるキツネなんだ。
「餌など欲しくはないですよ。きょうはわっちはだんなさまのごきげんにうかがいましたのさ」
「あのさ、そのだんなさまとかやめてくれないか?おまえみたいな魑魅魍魎にそう言われるのはなんかものすごい抵抗がある」
「そんなあ…」
そうしょげながらテンコは松の木の根元からトボトボと出てきた。小さいからだだけど俺と同じ金色をした毛、そしてあろうことかしっぽが九本ある。いわゆる九尾のキツネ。つまり妖怪のたぐいなのだ。
「まったくこんな朝っぱらから出てきやがって。ひとに見られたらどうするんだよ」
「そんときゃワンワンって吠えまする」
「犬にゃ見えねえよ」
「それよりだんなさま、知ってますか?」
「なにを?」
「鬼が出たって言うじゃありませんか」
「またそれか」
まったくめんどうくさいやつらだ。
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