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第一章
飛鳥時代、壬申の乱というものがありました。古代やまとにおける史上最大の内乱は、とにかくひどいものでした。世は乱れ、まさに百鬼夜行が如しでした。やがて幾度かの戦いを制し、そうして即位したのが天武天皇です。それから数えて三代、天明天皇が遷都の勅をおこない、藤原京からこの平城京に遷都して以来六十八年、ですがひとびとはいまだ不安のなかで暮らしていました。それはいくさの余波とも言うべきものでしょう。安寧を求め遷都したものの、人心は乱れ、さらに野盗が横行し、輪をかけるように魑魅魍魎が跋扈していたのです。このやまとの地に住むものはみな、その恐怖に怯え、息をひそめるように生きるしかありませんでした。それは都に住む者たちも例外ではなく、自然災害や絶えず起こるいくさや争い、そして怪異のたぐいが日夜ひとを苦しめていたのです。
そんななか、ひとりの少年がその都で、底抜けに明るく暮らしていました。
その名を『松尾丸』。宮中の公卿の要職にある坂上苅田麻呂の三男で、青い瞳、金色に輝く髪の毛を持った背がスラッと高い凛々しい子供です。ね、超かっこいいんですから。あ、申し遅れました。わっちは、いえわたしは語り部、名をテンコと申します。これよりわがあるじの、すがすがしくも強く美しいその生きざまを語りたいと思います。
さあこれは、平安時代、いえ恐らく未来永劫唯一無二の武将、坂上田村麻呂(さかのうえの たむらまろ)の、史上最強の武神といわれた彼のものがたりです…。
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