両手いっぱいにありがとうの花束を

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 昨日。憧れが高じて神とあがめる姿を目にして、我知らず明は瞬間移動のような瞬発力を発揮した。晶貴が建物に入る前に駆け寄った、はいいが、本人と目が合ったとたん、あまりの感激に明の時は止まってしまった。何度も頭の中で練習した言葉も、行動もすっ飛んで、息をするのも忘れた。 「ファンレター?ありがとう、でも直接は困るんで」  彼の隣から、スーツの男性が手を伸ばし、明が握りしめた白い角形封筒を取る。中身を開いて顔をしかめた。隣から覗いた晶貴も首を傾げる。 「履歴書? ってねえ――てか顔青いけど、大丈夫?」  ぷはっ。かけられた声を合図に、長いフリーズ状態がとけた。明の体は、一気に酸素を求めて前かがみに折れ、盛大にむせこんだ。 「大丈夫?」  慌てる男性を尻目に晶貴が対応してくれた。男性に水を頼んで、座ろうか、と明の肩を支えドアが開いたままの車のシートへ誘導してくれる。遠のきかけた意識を段々と取り戻した明は、あらためて、路肩に立ちこちらの様子を見守るその人に尊敬の念が溢れた。やっぱり神だ。ここに来たのは間違いじゃなかった――。確信に両の拳をぎゅっと握りしめる。言わなきゃ。今すぐ言わなきゃ。 「たっ。たのもー!」  叫んだあとにはっとする。違う。そうじゃない。殴り込みに来たんじゃない。  再び青ざめたがもう遅かった。 「なんだそれ」  落ち着いた無表情から一転、晶貴が笑顔を弾けさせた。お腹を抱えて爆笑している。弁解の余地もない。明は顔から湯気を噴き出して、伝える言葉のあてもないまま、むなしく唇を開け閉じした。 「なんかよくわかんないけど、オレが面接してあげよっか」  明が瞬く間にも、神対応は続いた。息を切らせて戻ってきた男性から、水のペットボトルを受け取ると、ふたを一度開けてから渡してくれる。車の座席から明が立ち上がるのにも手を貸してくれ、気を付けて帰ってねと気遣ってくれた。  そして。 「明日ね。絶対、秘密で」  男性が、車を駐車場に移動するため運転席に乗りこんで、二人で向き合った隙にこっそり、時間と場所を告げられた。
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