両手いっぱいにありがとうの花束を

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「明、カワおもしろいのにね」 「かわ?」 「カワいい、プラス面白い」  一瞬固まり、次の瞬間に顔から火を噴く。噴火の勢いで頭が首から抜けるんじゃないかと心配になり、明は両手で頬を抑えた。 「今オレにはたくさんしゃべってるじゃん」 「ですね。今は」  不思議な気もするが、いつものことのような気もする。自宅の部屋の勉強机には、晶貴の写真が飾られている。写真といえども気恥ずかしくて、とても目は合わせられないけれど、今日もダメでした、でも明日こそは、という反省や、学校で見聞きしたこと、勉強の悩みなどなど、友達ができたらしたい、他愛のないおしゃべりを日々とめどなく投げかけているから。 「慣れれば大丈夫なんじゃないの?」 「かもしれないです」 「最初からちゃんと、とかうまくしゃべろう、とかいっぺんに気にすると焦るでしょ。気にすること減らせたら、喉の渋滞もマシになるよ。初めからうまくいかなくても、次があるし、と思った方が気が楽」  語る神の声は歌唱よりもトーンが低いが、まとう響きは歌われるときと同じにやさしい。鼓膜に溶けて身に染みる。 「明は、目力強いのに口下手っていう、主張強いんだか弱いんだかわかんないアンバランスがいいよね。どっちに転ぶか気になるし。昨日からめっちゃ笑わせてもらったし。そういうとこ周りに知られてないのもったいないな。いっそ小田くんにも告っちゃえば?」 「こく、こくこく!?」 「好きなんでしょ。その人追いかけて同じ高校行くくらいだから」 「そそ、そうかもしれませんけど。というか、そうですね。そうなんでしょうね。だとしても、私が告白なんて、滅相もない」 「大丈夫。フラれたっていい女になるだけだよ」  大きく高鳴る胸を押さえて、明はほう、と息を吐いた。 「大人なセリフですね」 「二十二年生きたくらいで大人になれた感じもしないんだけどね」  苦笑して晶貴はベンチの背にもたれた。
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